アンドラーシュ・シフによるバッハの≪2声のインヴェンション≫と≪3声のインヴェンション≫を聴いて
アンドラーシュ・シフによるバッハの≪2声のインヴェンション≫と≪3声のインヴェンション≫(1983年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。
今から約40年前の、シフが30歳になった年に録音された当盤。ここで聴くことのできる演奏はと言いますと、簡潔にして、明快なものとなっています。
虚飾のない演奏ぶりでもあります。そのうえで、清澄で、楚々とした音楽が奏で上げられている。そのような演奏ぶりは、この曲集の性格に誠に相応しいものだと言いたい。繊細であり、無垢でもある演奏だとも言えそう。
しかも、ニュアンスが豊かで、精妙な音楽が響き渡っています。リリシズムに溢れていて、かつ、凛としている。更に言えば、端然とした中にも、必要に応じての躍動感や愉悦感が備わってもいる。或いは、「静謐な美しさ」を湛えてもいる。
そのような世界を描き出すために、音は極限にまで磨き上げられていると言えそう。しかも、透明感のあるキリッとした響きの中に、暖かみが感じられもする。硬質なようでいて、マイルドな音楽となっている。いや、「純美」な音楽だと言えば良いでしょうか。
そんなこんなのうえで、音楽に過度な表情を加えるようなことをせずに、冴え冴えとした音楽が展開されてゆくのであります。それはもう、透徹され尽くされた音楽世界が描き出されているとも言えましょう。
心に深く染み渡ってくる演奏。しかも、勿体ぶったところのない、親しげで、率直な演奏が繰り広げられている。そんなこんなも、シフの感受性の豊かさや、音楽への誠実さや、といったものの現れだと思えてなりません。
なんとも味わい深くて、魅惑的なバッハ演奏であります。