ミルシテイン&バージン&フィルハーモニア管によるブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番を聴いて
ミルシテイン&バージン&フィルハーモニア管によるブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番(1959年録音)を聴いてみました。
これは、ミルシテイン(1903-1992)が56歳の時の演奏になります。
ヴァイオリン奏者の心技体のバランスが最も取れているのは、50代の半ばだと言われることが多いのではないでしょうか。それからしますと、この演奏は、ミルシテインがまさにその時期を迎えていたタイミングでの録音だということになります。そして、素晴らしいヴァイオリン演奏が繰り広げられています。
さて、ここでのブルッフの演奏はと言いますと、ミルシテインらしい凛としたものになっています。折り目正しくて、気品に満ちている。
この、ロマンティシズムに溢れた作品を演奏するに当たりましても、情緒に流されるようなことはなく、背筋のピンと伸びた演奏ぶりが示されています。どこにも誇張が無く、毅然としている。
それでいて、充分過ぎるほどに美しい。甘さは皆無でありつつも、端整で匂い立つような「美」がここには有る。それは、「粋」だと言って良いかもしれません。
何から何までが真摯(そして、紳士的でもある)な演奏態度であり、しかも、凛々しくて端麗な音楽世界が出現してくるような演奏が繰り広げられている。そのうえで、媚びを売らない、高貴なロマンティシズムが滲み出てくるような演奏となっている。純粋な美が備わっている演奏だとも言いたい。そんなこんなによって、聴いていて幸福感を味わうことのできるブルッフになっている。
いやはや、なんとも見事な、そして、頗る魅力的な演奏であります。