リリー・クラウスによるシューベルトの即興曲集を聴いて
リリー・クラウスによるシューベルトの即興曲集op.90,142の全8曲(1967年録音)を聴いてみました。親日家だったクラウス(1903-1986)が64歳の時に来日し、その折に録音されたものになります。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。
詩情性に富んでいて、ニュアンスが細やか、それでいて、逞しさも備わっている演奏となっています。
全体的にテンポは速めで、素っ気ないような外観を呈しています。全くベトつきのない音楽が奏で上げられている。とは言え、そこに籠められている情感の豊かさには比類のないものがある。しなやかで、暖かみがある。夢見るような抒情性に溢れていて、詩情豊か。頗るデリケートでもある。そのような性格が、この曲集には誠に相応しい。しかも、凛とした音楽となっている。
そのうえで、情熱的な激しさがあり、強靭な演奏が繰り広げられている。そう、決して「ひ弱な」音楽が鳴り響いている訳ではないのであります。過剰に耽美的になるようなこともない。
まさに至芸だと言えましょう。
実家の父親がLPで所蔵していて、数十年来、愛聴している1枚。この曲集の音盤としては、内田光子さん、ピリスとともに、個人的にはTop3を成す演奏となっています。全て女流ピアニストであるというところに、この曲集の性格が感じられますよね。
(男性のよる演奏では、ブレンデル、ツィマーマン、ルプーに惹かれます。)