ブーレーズ&ロンドン響によるベルリオーズの≪幻想≫を聴いて

ブーレーズ&ロンドン響によるベルリオーズの≪幻想≫(1967年録音)を聴いてみました。
ブーレーズは、1996年にクリーヴランド管と同曲をDGレーベルに再録音しており、こちらはブーレーズにとっての旧盤ということになります。
なお、この演奏は、≪幻想≫と対をなしている≪レリオ≫とを史上初めてセットにして録音したものとして世に送り出されており、そのことでも話題になったようです。

さて、この≪幻想≫の旧盤でありますが、ブーレーズらしい、精緻で明晰で、透明感のある演奏となっています。音の粒がクッキリしてもいる。しかしながら、さして尖鋭なものになっていない。冷ややかでもない。むしろ、暖かみがあり、まろやかさや、しなやかさや、ふくやかさが感じられもする。
クッキリとしていていながら、柔らかみがある。何とも不思議な、そして、見事な演奏ぶりが示されています。しかも、極彩色ではない中での色彩感がある。クリアでありながら、カラフルでもあるのです。
ブーレーズにしばしば見受けられる、作品を突き放したところで成立しているような演奏でもない。更には、音楽の表情は決して素っ気ないものとなっておらず、ましてや無味乾燥なものなどでもなく、親しみ深い雰囲気に溢れています。そして、生命力に溢れていて、実に逞しい。ドラマティックな感興にも不足はなく、第1楽章の後半などでは音楽を随分と煽っている。
そのような中で、第4楽章の「断頭台への行進」では、かなり遅いテンポが採られていて、おどろおどろしい音楽となっています。そのことによって、大きなアクセントとなっているのが、なんとも興味深いところ。その雰囲気は、第5楽章の前半部分にも影を落としています。

ブーレーズは、1990年代以降、演奏ぶりが随分と丸くなったように感じていますが、それ以前は、尖った演奏をすることが多かった。そこへゆくと、1967年の演奏となる当盤は、後年のブーレーズの演奏ぶりを彷彿とさせるものだと言えそう。
ブーレーズの芸風や、演奏ぶりの変遷を考える上で、興味深い1枚であると思います。
それとともに、聴き応え十分な素晴らしい演奏であり、数多くある≪幻想≫の音盤の中でも、しっかと存在感を示している1枚であると思います。