シューリヒト&ウィーン・フィルによるモーツァルトの≪ハフナー≫とシューベルトの≪未完成≫を聴いて
シューリヒト&ウィーン・フィルによるモーツァルトの≪ハフナー≫とシューベルトの≪未完成≫(1956年録音)を聴いてみました。
両曲ともに、恬淡とした演奏になっています。飾り気がなくて、朴訥としている。
シューリヒトによる演奏と言えば、「枯淡」という言葉がイメージされることが多いように思えますが、ここに収められている演奏などは、まさにそれがピッタリ。
世俗を離れた音楽、と言えましょう。そのうえで、高潔な雰囲気が漂っている。
そこに、この時代のウィーン・フィルならではの、鄙びていて、しかも優美な響きが加わることによって、懐かしさのようなものが感じられてきます。郷愁を誘われると言っても良いでしょう。とりわけ、≪ハフナー≫の第2楽章などで、そのことが顕著。
ここでのシューリヒトは、特別なことは何もしていないよう。それでいて、音楽全体がキリッと引き締まっていて、キビキビとした躍動感が与えている。しかも、息遣いが頗る自然。決してドラマティックではなく、淡々と進められていながらも、音楽が生き生きとしている。そこから先は、作品自体に「美」を語らせようとしているような演奏。そんなふうに思えます。
しかも、≪未完成≫の演奏では、峻厳な雰囲気が漂ってもいる。しかも、第1楽章の展開部では、この音盤に収められている演奏の中では最も熱くてドラマティックなものとなっていて、彫りが深くもある。それだけに、ここの部分での演奏ぶりが、余計に際立っている。
シューリヒト&ウィーン・フィルというコンビならではの独特の魅力を持った、実に素敵な演奏であります。