アバド&ロンドン響によるバルトークの≪中国の不思議な役人≫全曲を聴いて

アバド&ロンドン響によるバルトークの≪中国の不思議な役人≫全曲(1982年録音)を聴いてみました。

明晰にして、鮮烈な演奏となっています。
音楽全体がクリアで、クッキリとした音によって敷き詰められている。そう、実に粒立ちの鮮やかな音楽となっているのであります。克明を極めている演奏ぶり。
そのために、冷酷さやグロテスクな性格が備わっていると言えるこの作品が、グロテスクであるというよりも、整然とした美を備えた音楽として鳴り響いている。
しかも、躍動感に満ちていて、とてもヴィヴィッドであります。アバドによるアプローチは、作品を突き放しながら客観的な目で(それは、冷ややかな目だとも言えそう)音楽を捉えてゆく、という方法を採っているように思えるのですが、奏で上げられている音楽は、頗る熱い。音楽が存分にうねってもいる。秩序立っていつつも、猛然と突き進んでゆくような勢いがある。必要に応じては、音楽を思いっきり咆哮させてゆく。
そんなこんなによって、クールにしてホットな音楽が掻き鳴らされていると言いたくなります。頗るスリリングでもある。

私がアバドの演奏に惹かれるのは、1970年代から80年代の前半辺りの録音に集中しているのですが、この演奏などは、その中でも特に瞠目すべき演奏であると思っている。
アバドの魅力と、この作品の魅力とを堪能することのできる、なんとも見事な演奏であります。