シェリング&ハイティンクによるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聴いて

シェリング&ハイティンク&コンセルトヘボウ管によるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲(1973年録音)を聴いてみました。

シェリング(1918-1988)は、これ以前にもティボーによる指揮と、イッセルシュテットによる指揮とで、同曲を2回録音していましたが、50代の半ばというヴァイオリニストとしての心技体のバランスが最も取れていると言われる時期に、当盤で3度目の録音を果たしています。その結果はと言うと、充実度の誠に高い演奏となっていると言えましょう。
当盤は、この曲に最初に親しんでいった「刷り込み」盤。そのこともあって、この演奏が未だにマイベストであり、私にとっての規範となっている。

まずもって、オーケストラによる序奏の、なんと素晴らしいこと。ハイティンク&コンセルトヘボウ管による、どっしりと構えた演奏ぶりと、ふくよかで芳醇な響きとによって、安定度の頗る高くて、風格豊かな、そして、格調の高い音楽が提示されてゆく。
そのような序奏を受けて、シェリングは、優しさに満ちた表情を湛えながら入ってくる。このことは全編を通じて貫かれてゆく。そう、普段のシェリングであれば、もっと峻厳な音楽が繰り広げられそうなものでありますが、暖かみがあって、優美な演奏となっているのであります。そして、気負いの全く感じられない演奏ぶりが示されている。であるが故に、この作品が持っているエレガントな性格が引き立ったものとなっている。
その一方で、シェリングらしい真摯さが感じられる演奏でもあると言えましょう。全編を通じて、堅実にして堅牢な音楽を奏で上げてくれている。そして、凝縮度が高くて、毅然としている。端正にして、凛とした気品もある。
更に言えば、音楽に対する「ひたむきさ」のようなものが滲み出てもいる。この辺りは、ハイティンクについても当てはまりましょう。
そんなこんなによって、なんとも美しい音楽となっています。そう、なんの虚飾も無い「美しさ」が立ち昇ってくるような演奏になっている。

この作品が持っている魅力をストレートに描き上げてくれている、素晴らしい演奏。そんなふうに言えるように思います。