カーチュン・ウォン&兵庫県立芸術文化センター管弦楽団による演奏会を聴いて
今日は、カーチュン・ウォン&兵庫県立芸術文化センター管弦楽団(通称:PACオケ)の演奏会を聴いてきました。演目は、下記の3曲。
●伊福部昭 バレエ音楽≪サロメ≫より「7つのヴェールの踊り」
●ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番(ピアノ独奏:三浦謙司さん)
●バルトーク ≪管弦楽のために協奏曲≫
カーチュン・ウォンは、1986年にシンガポールで生まれた指揮者。今年、36歳になる、若手の指揮者ということになりますが、我が国の多くのオーケストラとは度々共演していて、2023-24年シーズンから日本フィルの首席指揮者に就任する予定になっているなど、評判が良いようであります。ちなみに、PACオケには、2019年の初登場以来、共演を重ねているとのこと。
そのようなウォンを聴くのは、今回が初めて。はたして、どのような演奏に巡り会うことができるのかと、ワクワクしながら会場へと向かったものでした。更には、前プロの伊福部昭さんの≪サロメ≫がどのような音楽なのかというところも、期待大でありました。
※伊福部さんの≪サロメ≫は、私にとっては、全くの未知な作品であります。
本日の演奏を聴いてみますと、前半だけでも、ウォンの音楽づくりの見事さに惚れ惚れとしてしまいました。鋭敏な演奏をする指揮者のようですね。敏捷性が高く、音楽に機敏に反応している、という印象が強い。
まずもって、≪サロメ≫が素晴らしかった。そして、面白く聴けました。
作品自体が実に魅力的でありました。躍動感に満ちていて、劇的な性格が強くて、かつ、妖艶でもあった。そして、エキゾティックな雰囲気があちこちから漂ってきて、オーボエによる官能的で雄弁なソロを筆頭に、サン=サーンスの≪サムソンとデリラ≫の「バッカナール」を思わせる場面も多かった。そのうえで、伊福部節が随所に聞かれ、血騒ぎ肉踊る興奮に溢れている。
ウォンの、その辺りへの反応がまた、なんとも見事。それはもう、動物的、もしくは、本能的(演奏家としての本能によるもの)とも言えるようなもので、音楽の流れに則してツボをしっかりと押さえながら、機敏に反応していたのであります。しかも、頗るしなやかで、頗る鮮やかに。そんなこんなによって、ドラマティックで、スリリングで、ヴィヴィッドな演奏となっていた。そして、めくるめく音楽世界が広がっていたのであります。
前半2曲目のラフマニノフでのオーケストラ演奏でも、同じことが言えましょう。作品のツボをしっかりと押さえながら、ドラマティック、かつ、ヴィヴィッドに、音楽を奏で上げていた。しかも、しなやかに、そして、鮮やかに。
一方、三浦さんのソロは、実に端正なものでありました。冒頭など、他の多くのピアニスト以上にセンツァエスプレーヴォな弾き方をしていて、訥々と語りかけるようにして開始された。その感覚は、基本的には最後まで変わりませんでした。確かに、音楽が激しさを増してくれば、力感豊かに弾いていた。しかしながら、力任せに押し切るようなところは皆無。情に溺れないラフマニノフ、といった感じで、整然とした演奏ぶりが披露されていったのであります。そのうえで、適度にロマンティック。技巧的な冴えも、随所で感じられた。
リリシストによるラフマニノフ演奏。そんなふうに言える、三浦さんの演奏ぶりでありました。
なお、アンコールはドビュッシーの「月の光」。この選曲からも、「力で押し切らないピアニスト」としての自負のようなものが感じ取れました。