ロストロポーヴィチによるショスタコーヴィチの≪死者の歌≫を聴いて
ロストロポーヴィチ&モスクワ・フィル室内管(モスクワ・フィルからの選抜メンバーで構成)によるショスタコーヴィチの交響曲第14番≪死者の歌≫(1973年録音)を聴いてみました。
独唱は、ヴィシネフスカヤ(S)とレシェーチン(Bs)。
この交響曲は、弦楽5部と多彩な打楽器群、それにソプラノとバスの独唱が加わるという編成。11楽章から成っており、演奏時間は約50分を要します。
ロストロポーヴィチは、1980年代から90年代にかけてEratoレーベルにショスタコーヴィチの交響曲全集を録音していますが、この曲だけは、1973年録音の当盤が全集に収められています。その理由は、ロストロポーヴィチの言によりますと、この演奏以上の演奏を残すことは不可能であるから、ということ。
なぜロストロポーヴィチがそのように判断したのか、この演奏を聴きますと、よく解るように思えます。
なんとも鮮烈な演奏になっています。そして、全編を通じて、全力投球がなされている。それはもう、これ以上の力の込めようはないのではないだろうか、と思えるほどに。そして、とても雄弁でもある。更には、実に真摯な演奏となっている。ストレートな感情の吐露がある。それらのために、音楽のそこここから慟哭が聞こえてくるかのよう。もっと言えば、切れば鮮血が噴き出すような生々しさを持っている。
しかも、実にシリアスな演奏になっています。ショスタコーヴィチならではのアイロニカルかつ悲壮な表現からは、身につまされるほどの真実味が伝わってくる。(それは特に、木琴の扱いに強く窺える。時に、叩きつけるように打ち鳴らされ、聴いていて戦慄が走ります。)
エネルギッシュでドラマティックでありつつ、小編成のオケならではの凝縮度の高さがヒシヒシと感じられるところも、この演奏の偉大なところだと言えましょう。終始、緊迫感の高い音楽が鳴り響いています。
そして、この曲で重要な役割を果たしている独唱陣の素晴らしさ、とりわけ、ロストロポーヴィチの細君でもあるヴィシネフスカヤによる清澄かつドラマティックな歌の素晴らしさは、いかばかりでありましょう。レシェーチンによる、深々としていて、かつ、実直な歌いぶりもまた、見事。歌手陣についても、この録音から20年ほどが経過していた交響曲全集の制作の時点で、これを上回る歌唱を示してくれる歌手陣を探し出すことは不可能であるとロストロポーヴィチが判断したのでありましょう。
それにしましても、この作品の魅力を存分に味わうことのできる、なんとも素晴らしい演奏であります。