ビーチャム&ロイヤル・フィルによるグリーグの≪ペール・ギュント≫抜粋を聴いて

ビーチャム&ロイヤル・フィルによるグリーグの≪ペール・ギュント≫抜粋(1956,57年録音)を聴いてみました。
10曲がピックアップされた抜粋版で、演奏時間は40分少々。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

ビーチャムによる演奏には、温厚でおっとりとしたものが多いという印象があるかもしれませんが、この≪ペール・ギュント≫では、かなりダイナミックで、逞しい演奏が展開されています。筆致に力強さがあり、克明であり、鮮烈でもある。活力に満ちてもいる。そして、音楽づくりは、適度に骨太なものとなっている。
と言いつつも、過度に賑々しかったり、どんちゃん騒ぎに堕したり、或いは、粗野であったり、といったようなことは全くありません。むしろ、格調の高さが感じられる。更には、親しみやすさや暖かみが感じられもする。この辺りは、いかにもビーチャムらしいところだと言えましょう。そのうえで、この作品が持っている詩情の豊かさや、メルヘンティックな雰囲気が良く出ている。情感豊かでもある。
しかも、語り口が巧みで、劇的な感興にも不足はありません。ビーチャムには、ロス・アンヘレスやビョルリンクらをキャスティングしてのプッチーニの≪ラ・ボエーム≫の録音がありますが、そこでもオペラティックな感興を湛えた演奏を繰り広げてくれています。ビーチャムの劇音楽への適性の高さを窺い知ることのできる音盤たちだと言えましょう。

ビーチャムの魅力と、この作品の魅力の双方をジックリと味わうことのできる、素敵な演奏であります。