トスカニーニ&ニューヨーク・フィルによるベートーヴェンの交響曲第7番を聴いて
トスカニーニ&ニューヨーク・フィルによるベートーヴェンの交響曲第7番(1936年録音)を聴いてみました。
なるほど、トスカニーニらしい剛毅で毅然としている演奏ではありますが、NBC響との演奏のような苛烈さはあまり感じられない。灼熱の熱さが迸るような演奏でもない。過度なまでに熱狂的でもない。それよりももっと、まろやかさの感じられる演奏となっています。
テンポは、とりたてて速くはありません。それでも、リズムは明快に刻まれているため、生気を帯びていて、キビキビとした表情を湛えています。力感の豊かさや、推進力の強さを備えてもいる。そして、十分に逞しくて、輝かしくもある。歌心に満ちているのは、これはもう、トスカニーニならではだと言えましょう。最終楽章での、クライマックスに向かう昂揚感にも不足はない。
そんなこんなのうえで、とても理性的なのであります。もっとも、トスカニーニは、音楽がどんなに熱狂的な色を帯びることがあろうとも、理性をかなぐり捨てるようなことは殆どなかったと、私は捉えています。と言いつつも、この演奏での理性の働かせ方は、いつものトスカニーニ以上だと言えそう。そのために、剛毅で明快で、逞しくて輝かしくありながら、端正で凛とした音楽が鳴り響いている。
トスカニーニによる多くの演奏は、ディオニソス的でありつつ、アポロン的でもあると、私は考えているのですが、この演奏では圧倒的にアポロン的な要素が強い。
トスカニーニによる音盤を俯瞰するうえで、なんとも興味深く、貴重な演奏だと思います。そして、そのようなことを度外視したところでも、なんとも見事で、素敵な演奏となっています。