アンダ、シュナイダーハン、フルニエと、フリッチャイ&ベルリン放送響によるベートーヴェンの三重協奏曲を聴いて

アンダ(P)、シュナイダーハン(Vn)、フルニエ(Vc)と、フリッチャイ&ベルリン放送響によるベートーヴェンの三重協奏曲(1960年録音)を聴いてみました。

フリッチャイによって描き上げられてゆく、キリっと引き締まっていて明晰な音楽世界。その上に、3人の名手たちが余裕を持った音楽を展開してゆく演奏。その様は、なんとも見事であり、そして、実に魅力的。
必要十分に強靭でありつつ、端正で滋味溢れるピアノを奏でてゆくアンダ。艶やかで、柔らかな美音を前面に押し出しながら連綿たる情緒を強調してゆくヴァイオリンのシュナイダーハン。そして、暖かくて、まろやかで、気品溢れるチェロを奏でてゆくフルニエ。
お互いが、各々の美質をシッカリと表していきながら、お互いが過度な主張をすることなく、調和の取れた演奏が繰り広げられています。例えば、第2楽章冒頭のチェロによるソロでの、フルニエによる高貴な歌などは、惚れ惚れするほどに美しい。そのチェロを受けて奏でられるヴァイオリンもまた、切実と、かつ、たっぷりと情感を込めて歌い抜かれてゆく。そのうえで、3者ともに、決して声を荒げるようなことはないのですが、充分な熱気を孕んでもいる。
そのような独奏陣に対して、フリッチャイは、目鼻立ちのクッキリとした、そして、全くベトつかないクリアな音楽づくりを施してゆく。と言いつつも、音楽がギスギスするようなことはなく、ふくよかさやまろやかさは充分で、恰幅の良さが感じられる。この辺りは、3人の独奏者たちの特質を考慮したうえでのことなのかもしれません。更に言えば、気宇が大きくて、充実感たっぷりな音楽が鳴り響いている。

いやはや、実に素晴らしい演奏であります。
この作品は、リヒテル、オイストラフ、ロストロポーヴィチと、カラヤンとが組んだ音盤に注目が集まる傾向にあると思えますが、当盤や、ヘンドル&コリリアーノ&ローズ&ワルター&ニューヨーク・フィル盤、ボザール・トリオ&マズア&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス盤など、魅力的な音盤が目白押し。これらの音盤の聴き比べもまた、実に楽しいところであります。