ケンプによるシューベルトのピアノソナタ第18番を聴いて
ケンプによるシューベルトのピアノソナタ全集から第18番≪幻想≫(1965年録音)を聴いてみました。
ケンプ(1895-1991)は、1965年から69年にかけてシューベルトのピアノソナタ全集の録音を完成させていますが、この第18番は、第16番と共に全集制作の第1弾となった録音でありました。
ケンプは、抒情性に溢れたピアニストであったと考えています。シューベルトは、そのようなケンプにピッタリな作曲家であると言えるのではないでしょうか。
さて、この第18番の演奏についてであります。
暖かみの感じられる演奏であります。柔らかくて、まろやかで、ふくよかでもある。そして、ケンプらしい抒情性に満ちていて、滋味に溢れた演奏となっている。
この作品は、全楽章を通じて、あまり劇的要素を備えていない音楽だと言えるように思います。そのような性格もあってのことでありましょう、この曲がシューベルトの生前に出版された際には、「幻想曲」と名付けられていました。全体的に、流れの清らかさのようなものが感じられる。
と言いつつも、第2楽章の真ん中あたりでは、強靭な打鍵を要求される箇所があったりもします。それは、最終楽章でも散見される。そのような箇所では、ケンプは、思いのほか逞しい音楽を奏で上げてくれています。そして、全体を通じて、芯のしっかりとした演奏となっている。
そんなこんなによって、清浄で、夢見心地に誘われるような美しさを湛えつつも、現実的な官能味も十分に感じさせてくれる演奏となっている。
ケンプによるシューベルトの素晴らしさをジックリと味わうことのできる、素敵な演奏であります。