テンシュテット&ロンドン・フィルによるブルックナーの≪ロマンティック≫の東京ライヴを聴いて

テンシュテット&ロンドン・フィルによるブルックナーの≪ロマンティック≫(1984年 東京ライヴ)を聴いてみました。

テンシュテット(1926-1998)は、旧東ドイツのライプツィヒの近くの街に生まれ、東ドイツでキャリアを重ねていきました。その後、1971年に西ドイツへ亡命。活動拠点を西側に移し、50代に入ろうかという時期にEMIに録音して、メジャーデビュー。日本でテンシュテットの名前を頻繁に聞くようになったのは、それ以降のことになります。
1983年に音楽監督に就任したロンドン・フィルとの1984年の来日は、テンシュテットにとっての初来日になりました。

さて、ここでの演奏を聴いて、感じ取れたことについて。
第3楽章のスケルツォ部を除くと、やや遅めのテンポが採られています。そのために、総じて、ジックリと音楽を進めている、といった演奏ぶりとなっています。その歩みは、慌てず急がず、と言いたくなるもの。そのうえで、凝縮度が高く、かつ、燃焼度の高い演奏が繰り広げられている。
全編を通じて、逞しい生命力を宿した演奏となっていて、音楽が存分にうねってもいます。とりわけ、最終楽章の冒頭部分などは、音楽が地底からムクムクと湧き上がっている、といった印象を抱かせ、その様は誠に雄渾なもの。そして、壮麗な音楽世界が築かれてゆく。

テンシュテットと言えば、熱い情熱を滾らせながら、壮絶な演奏を繰り広げることの多い指揮者、というイメージが強いように思えますが、この演奏では、情熱的でありながら、理性的でもある、とった演奏ぶりであると言えそう。それはブルックナーの音楽を意識したうえでのことなのでありましょう。
そんなこんなによって、作品のフォルムを崩すことなく、テンシュテットならではの「熱さ」を感じさせてくれる演奏となっている。それは、「端正な熱さ」と呼べそうなもの。しかも、壮麗で、立派かつ充実度の高い演奏となっている。
ユニークな魅力を湛えているブルックナー演奏であると思います。