ブーレーズ&アンサンブル・アンテルコンタンポランによるストラヴィンスキーの≪プルチネルラ≫を聴いて

ブーレーズ&アンサンブル・アンテルコンタンポランによるストラヴィンスキーのバレエ音楽≪プルチネルラ≫全曲(1980年録音)を聴いてみました。

このバレエ音楽は、イタリアのバロック期の作曲家ペルゴレージらの音楽を引用して作られた、新古典主義スタイルによる作品。美しい旋律に彩られていて、古典的で端正な佇まいをしていて、晴朗な音楽世界が広がっています。「お伽の世界」が現れているとでも言いたくなるような、とてもチャーミングな音楽であります。
今年は早々と梅雨が明け、ここ数日、暑い日が続いていますので、ここは涼し気な音楽を聴こうとの思いで、こちらを聴いてみた次第であります。

この演奏が含まれている3枚組のLPには、≪兵士の物語≫や、≪12の楽器のためのコンチェルティーノ≫、交響詩≪うぐいすの歌≫、≪オーケストラのための4つのエチュード≫など、ストラヴィンスキーによって生み出された音楽の中でも、編成が小規模であったり、作品の規模そのものが比較的こじんまりしたものが選曲されていて、1980,81年にかけて録音されています。この3枚組が、オリジナルな形で発売されたもの。
ブーレーズ(1925-2016)は、1975年にBBC響のシェフから、1977年にはニューヨーク・フィルのシェフから退いています。この演奏が録音されたタイミングは、1976年に創設したアンサンブル・アンテルコンタンポランでの活動に傾注しようとしていた時期にあたると言えましょう。ブーレーズの指揮者としての活動の期間としては、録音の数も少なかった。そして、1990年代に入って、DGレーベルと専属契約を結び、一気に録音の数が増えてゆきます。そこでは、1970年代までの精鋭的な演奏ぶりから、ちょっと丸みを帯びた演奏へと変化したブーレーズの姿を、我々は見出すこととなった。
この3枚組LPは、そのようなブーレーズの転換点とも言えそうな時期の演奏ぶりを垣間見ることのできる数少ない音盤の一つとして、貴重な存在であると捉えています。

さて、ここでのブーレーズによる演奏は、なんとも清澄で晴朗なもの。精密で、透明感がある。そして、適度に鋭利で、全体をスッキリとまとめている。律動感にも不足はない。決してケバケバシクならない範囲での色彩感も鮮やか。
全体的に凛々しい佇まいを見せていますが、メルヘンチックでキュートな雰囲気もシッカリと表出されている。
私の大好きな作品の一つ、≪プルチネルラ≫。虚飾のない、明快で精妙な演奏ぶりによって、このチャーミングな作品を、等身大の姿で堪能することができる。そんな魅力を備えている演奏だと言えましょう。
暑さを吹き飛ばしてくれる、素敵な作品であり、素敵な演奏でありました。