イッセルシュテット&ウィーン・フィルによるベートーヴェンの交響曲第5番を聴いて

イッセルシュテット&ウィーン・フィルによるベートーヴェンの交響曲全集から第5番(1968年録音)を聴いてみました。

これは、1965年に録音された≪英雄≫から、1969年に最後に録音された第7番によって完成された、ウィーン・フィルとしての最初のベートーヴェンの交響曲全集であります。1970年のベートーヴェン生誕200年の記念イヤーに、セットとして纏められています。
全集全体についての特徴としましては、イッセルシュテットによる誠実で手堅い音楽づくりがもたらしてくれる魅力を存分に持っていつつも、ウィーン・フィルの典雅な響きの美しさが最大限に表されているベートーヴェン演奏となっていることが挙げられましょう。

さて、ここでの第5番についてであります。
ここでも、この全集ならではの、イッセルシュテットによる誠実で格調の高い音楽づくりと、ウィーン・フィルの柔らかくて美しい響きの魅力に敷き詰められている、素晴らしい演奏となっています。演奏全体が、清潔感に溢れている。大言壮語するようなことはなく、端正な音楽が鳴り響いています。
それでいて、雄渾でもある。そう、この作品が持っている巨大なエネルギーを、大袈裟にならない形で、適切に放出してくれているのであります。テンポはやや早め(当時としては、の範疇でありますが)で、推進力も充分。凝縮度も非常に高い。しかも、音楽の流れは実に自然。
そのうえで、薫りが高くて、雅趣の深い音楽となっている。それはもう、気高さすら感じられるほどに。
そして、ウィーン・フィルの美音の魅力は、ここでも絶大であります。しなやかで、柔らかくて、艶やかで、輝かしい。それでいて必要以上に華美にならない。

なんとも感興豊かで、奥行きの深さのようなものが感じられる演奏。
いやはや、誠に魅力的な演奏であります。