スダーン&兵庫芸術文化センター管による演奏会(ベートーヴェンの≪田園≫他)の最終日を聴いて
今日は、スダーン&兵庫芸術文化センター管(通称:PACオケ)による演奏会の最終日を聴いてきました。演目は、下記の3曲。
●シューベルト 交響曲第5番
●ハイドン ピアノ協奏曲Hob.ⅩⅧ:11(独奏:児玉桃さん)
●ベートーヴェン ≪田園≫
ハイドン、ベートーヴェン、シューベルトと、ウィーン古典派からロマン派初期の3人の作曲家を並べたプログラム。私がスダーン&PACオケによる演奏を聴くのは2023年の2月、2024年の12月に続いて、これが3回目になります。
そのうち、2023年の2月の演奏会も、この3人の作品を並べたプログラムが組まれていました。その時に協奏曲作品として採り上げられたのはベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番だったのですが、ソリストを務めていたのは、児玉桃さんのお姉さんである児玉麻里さん。そんな、およそ2年半前の演奏会のリフレインのような、本日の演奏会でありました。
その2年半前の演奏会では、虚飾を排した誠実な演奏を繰り広げてくれていたスダーン。目鼻立ちがクッキリとしていた演奏を聞かせてくれました。しかも、十分に生気に溢れていて、躍動感を備えた音楽となっていた。本日もまた、そのような音楽に巡り会うことができるのであろうと、ワクワクしながら会場に向かったものでした。
それでは、本日の演奏会をどのように聴いたのかについて書いてゆくことに致しましょう。
まずは前半の2曲からになります。
シューベルトでもハイドンでも、速めのテンポを基調としながら爽快に駆け抜けてゆくような演奏が展開されました。ケレン味がなくて、誠実味に溢れた演奏でもあった。
シューベルトの演奏が始まったとともに、爽やかな音楽が耳を捉え、誠に心地が良かった。実に溌溂としていた。そして、清冽でもあった。その印象は、前半を通じて変わりませんでした。
両曲ともに頗るチャーミングな作品でありますが、その魅力がストレートに伝わってくる演奏だったとも言いたい。
そのような中で、シューベルトでは、例えば緩徐楽章において顕著だったのですが、歌謡性に満ちた音楽づくりが為されていた。しかも、緩徐楽章においては、わざとらしくならない範囲で粘り気が施されてもいて、コクの深い音楽となっていました。また、第3楽章では、この楽章に相応しいデモーニッシュな雰囲気や緊迫感に不足がなかった。更には、これは全楽章を通じてのことなのですが、エコーの効果を多用していて、音楽に程よい陰影が付いていた。
そんなこんなによって、一本調子にならない演奏となっていた。そのうえで、この作品らしい楚々とした佇まいをした演奏となっていました。
一方のハイドンでは、可憐な雰囲気が横溢していました。人懐っこさに満ちてもいた。
そのようなスダーンの音楽づくりに対して、児玉さんがまた、粒立ちの鮮やかな音を駆使しながら、嬉々とした表情を浮かべた音楽を鳴り響かせてくれていました。頗る小気味が良かった。ウィットに満ちてもいた。そんなこんなによって、頗る愛くるしい音楽が奏で上げられていったのであります。そのうえで、情に流されるようなことがなく、キリッとしていた。
この作品に相応しい、なんともチャーミングな演奏でありました。
なお、カデンツァはブレンデルが書いたものだったようです。
アンコールは≪展覧会の絵≫から「殻を付けた雛の踊り」。タッチがとても柔らかくて、かつ、軽やかで、音楽がコロコロと流れてゆく。しかも、ところどころで立ち止まりながら、辺りをキョロキョロと眺めるような素振りを見せていたのが、愛嬌たっぷりでもあった。
これまた、ウィットに満ちた、素敵な演奏でありました。
ここからは、後半の≪田園≫についてとなります。
その演奏がと言うと、前半での音楽づくりを踏襲したものだったと言えましょう。すなわち、速めのテンポでキビキビと進めながら、爽やかな演奏を繰り広げてくれていたのであります。
そのような音楽づくりが、殊更に冒頭楽章の雰囲気に相応しかった。それは、「田舎に着いた時の楽しい感情の目覚め」そのものだったと言いたい。
そのうえで、冒頭楽章では、一段落つくごとにテンポを落とすことによって、音楽にキッチリとした句読点を付けていた。それ故に、音楽がタップリと息づいていました。
その一方で、第2楽章では、一段落ついてもテンポを落とすようなことをせずに、決然と歩みを進めていた。それ故に、小川の流れが淀むようなことがなかった。流麗にして清冽な音楽となっていた。慧眼だと言えましょう。
第3楽章では、ホルンを強調しながら、雄渾な音楽を鳴り響かせていた。なおかつ、リズミカルで、嬉々とした雰囲気にも不足がない。
第4楽章の嵐の場面は、必要以上にドラマティックに掻き鳴らすようなことはなく、節度を持ちながら克明な音楽を奏で上げていった。それはまさに、純音楽的なアプローチだったと言えましょう。この辺りの融通無碍な対応は、見事でありました。音楽センスの高さが感じられもした。
最終楽章も、殊更に大袈裟に振る舞うようなことはなかったものの、音楽は十分に高揚していました。そして、音楽が豊かに息づいていた。ヴィオラとチェロが旋律を奏でる箇所(32小節目)などは、十分にうねってもいた。そんなこんなの呼吸が、曲想に相応しいものでありました。
全編を通じて、虚飾を排した誠実な演奏ぶりであり、なおかつ、生命力に溢れた音楽が鳴り響いていた。やるべきことを堅実にやり尽くしてゆく、といった演奏だったとも言いたい。その結果として、≪田園≫という作品が等身大な姿で再現されていった。変に重くなるようなことは皆無でありつつも、ズシリとした手応えを持っている演奏となっていた。
なるほど、刺激に乏しい演奏ではありましたが、このようなタイプの演奏は、私は大いに買います。
そのようなスダーンの音楽づくりに対して、オケも献身的に応じていたと言いたい。アカデミー機能を持ったオケでありますが、ウィーン古典派の作品からは学ぶものが多いでしょうし、このようなオーソドックスなアプローチによる演奏だと、その意味合いは更に増すことでありましょう。そのような中で、今季から入団してずっと注目しているホルンの宇奈根さんが、やはり、気品のある音を鳴り響かせてくれていて耳を奪われました。彼女が吹くホルンは、倍音がとても豊かなのでありましょう。オケ全体を包み込むようにして響き渡るのであります。このようなホルンがいるオーケストラは、とても魅力的なものとなりますよね。
(欲を言えば、第3楽章のソロが、ややテンポに乗り切れていなかったと言いましょうか、リズミカルさに欠けていたのが惜しいところでしたが、あのソロは、かなり難しいのでしょうね。)
本日の演奏会、総じて、期待通りの素晴らしい内容であり、満ち足りた気分で会場を後にしたものでした。
次にスダーンがPACオケに登壇するのはいつになるのでしょうか。そのときが楽しみであります。