マゼール&クリーヴランド管によるプロコフィエフの≪ロメオとジュリエット≫全曲を聴いて

マゼール&クリーヴランド管によるプロコフィエフの≪ロメオとジュリエット≫全曲(1973年録音)を聴いてみました。
当盤は、1972年にクリーヴランド管の音楽監督に就任したマゼールと当楽団との初録音であり、かつ、旧西側の演奏家によるこのバレエ作品の最初の全曲録音となったものになります。(これ以前には、ロジェストヴェンスキー&ボリショイ劇場管が全曲を録音していた。)

鋭敏であり、かつ、精巧で透明度の高い演奏となっています。清潔感に満ちた音楽美に溢れている。そのうえで、充分に鮮烈でもある。硬質でありつつ、音楽が存分に煌めいてもいる。そして、情景の描写が細やかで、克明でもある。
基本的には凝縮度の高い演奏が展開されています。それでいて、劇的な瞬発力と言いましょうか、エネルギーを一気に開放しながらドラマティックな感興を高めてゆくような場面も多く(それは例えば、決闘のシーンなど)、大きな起伏が採られた演奏が繰り広げられている。冷徹な眼差しで作品を見つめているようでいて、ロマンティックな場面では、すすり泣くような音楽を奏でてゆく(例えば、バルコニーのシーンと、それに続くロメオのヴァリアシオンなど)ことによって、奥行きのある音楽世界が広がることとなってもいる。その一方で、リズミカルなナンバーではキビキビと音楽が進められ、歯切れが良くて、かつ、小気味の良い音楽を響き渡らせてくれている。最終曲などは、哀感に満ちた痛切な音楽が高らかに奏で上げられ、最後には儚く全曲が閉じられる。
かように、表現の幅が広くて、しかも、明瞭にして生き生きとしている。その結果として、目くるめく音楽が現れることとなっている。スリリングでもある。と言いつつも、奇を衒ったようなことは微塵も感じられず、ピュアな美しさを湛えたものとなっている。
そのようなマゼールの音楽づくりに対して、クリーヴランド管の機敏な反応がまた、なんとも見事。合奏は精緻であり、音の粒が鮮やかで、かつ、響きの純度が高くてキリっと引き締まっている。そのような演奏ぶりが、この演奏をより一層魅力的なものにしてくれています。

このバレエ作品の魅力と、マゼール&クリーヴランド管というコンビの素晴らしさとを、ジックリと味わうことのできる、素敵な演奏であります。