チョン・キョンファ&ケンペ&ロイヤル・フィルによるブルッフの≪スコットランド幻想曲≫を聴いて
チョン・キョンファ&ケンペ&ロイヤル・フィルによるブルッフの≪スコットランド幻想曲≫(1972年録音)を聴いてみました。
これは、チョンが24歳のときの演奏になります。音盤としましては、デビュー盤となったチャイコフスキーとシベリウスの協奏曲に続いての、2枚目の録音。
私の中では、チョン・キョンファは、情熱的なヴァイオリニストというイメージが強い。特に、若い頃の演奏においては。
しかしながら、このブルッフは、少し様相が異なります。精細さが前面に出ている演奏ぶりであると言えましょう。そして、折り目正しい演奏となっている。
もう少し奔放であっても良かったのでは、という思いが募ります。ブルッフのこの曲がまた、ロマンティシズムたっぷりな情熱をぶつけてゆくことを、大いに許容してくれる音楽であると思われるだけに。
しかしながら、このようなデリケートな演奏もまた、一興だと言えましょう。しかも、単にデリケートであるだけでなく、エレガントさを感じさせてくれる演奏となっている。しなやかさが備わってもいる。
そして、清冽な歌が籠められている。清涼感が漂ってもいる。この点については、作品の性格に適したものだと言いたい。
今述べたようなことは、ケンペのサポートにも当てはまりましょう。チョンにピッタリと寄り添いながら、端整にして気品のある演奏を繰り広げてくれています。キリっとしていつつ、清潔感の漂う音楽づくりが為されてもいる。そのうえで、適度な貫禄が感じられもする。
チョンの演奏を俯瞰するうえで、独特な位置づけを占めていそうな、ユニークな味わいを持った興味深い演奏であると思います。