マリナー&アカデミー室内管によるハイドンの≪マリア・テレジア≫と≪王妃≫を聴いて

マリナー&アカデミー室内管が、1975年から78年にかけて録音したハイドンの20曲のニックネーム付き交響曲を集めたセットから、交響曲第48番≪マリア・テレジア≫と第85番≪王妃≫の2曲(1975年録音)を聴いてみました。

女帝・王妃に関連したニックネームを持つ2曲。その曲名の由来は、下記の通りであります。
≪マリア・テレジア≫は、オーストリア女帝のマリア・テレジアが、ハイドンの仕えていたエステルハージ家の城の一つであるエステルハーザを1773年9月に訪問した折、歓迎のためにこの曲が演奏されたと考えられてきたため。但し、近年の研究で、この曲が作曲されたのは1768年か69年だと判明し、実際にマリア・テレジア歓迎のために演奏されたのは交響曲第50番であっただろうと推定されています。
なんだか当てにならない由来でありますが、ハイドンの交響曲では、ニックネームにまつわるエピソードが、実は異なる作品に対してのものだったという勘違いは他にも存在します。それは、第96番の≪奇蹟≫。この曲の初演時、人気作曲家であったハイドンをよく見ようと、聴衆がステージ近くまで押し寄せてホールの中央に空席ができ、その真上のシャンデリアが落下して砕け散ったにもかかわらず誰も怪我をすることがなかった。そこで、「奇蹟だ、奇蹟だ」という声が起きて、それがニックネームとなったとされています。しかしながら、この出来事が実際に起きたのは、交響曲第102番が初演された時だということが解っています。
しかしながら、今でも両曲は、≪マリア・テレジア≫、≪奇蹟≫として、親しまれております。
さて、もう1曲の≪王妃≫についてですが、マリア・テレジアの子供でフランス王妃となったマリー・アントワネットが、この曲を大変気に入ったということで、敬意を表して出版商が命名したのがきっけだと言われています。こちらは1785年の作であろうと考えられています。

さて、ここでの演奏について。
清々しい演奏であります。颯爽としていて、スマートで、明快で、軽妙。響きには厚ぼったさがなく、透明感に溢れている。躍動感にも不足はない。そんなこんなによって、センスよく音楽を仕立て上げていく巧みさが、実に心地よい。とりわけ、≪王妃≫の第1楽章での疾駆感に満ちた演奏ぶりは、実に鮮やかであります。
総じて、キリッと引き締まっていて、スッキリと纏め上げられていて、しかも、しなやかで伸びやか。キビキビとしていて、表情が生き生きとしています。冴え冴えとしていて、小粋でもある。そのうえで、とても美しい佇まいをしている。
そのような演奏ぶりが、両曲のキュートな魅力を引き立ててくれています。しかも、大言壮語せず、誇張もなく、キリッとスキッとした音楽世界を描き出してくれている。

ハイドンのチャーミングな音楽世界を、清々しい思いをしながら堪能することのできる、なんとも魅力的な演奏であります。