アラウ&コリン・デイヴィス&シュターツカペレ・ドレスデンによるベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を聴いて
アラウ&コリン・デイヴィス&シュターツカペレ・ドレスデン(SKD)によるベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(1987年録音)を聴いてみました。
なんとも清澄な演奏であります。そして、格調高くて、凛とした美しさを湛えたものとなっている。これらは、ピアノについても、指揮についても、当てはまる。
と言いつつも、この演奏を特徴づけているのは、SKDの響きであるように思います。SKDの清らかな響きが、この演奏を清冽で澄み切ったものとしている。そして、気品に満ちたものとしている。そんなふうに思えてなりません。
アラウは、誠に滋味深い演奏を聞かせてくれています。慌てず騒がず。遅めのテンポを採り、どっしりと構えながら、風格豊かな演奏を繰り広げている。
普段のアラウのピアノは、暖かみが感じられるものであると思っています。しかしながら、ここではクールな感じがする。と言いましょうか、冴え冴えとしている。結晶化されたような透明感があり、肌触りがヒンヤリとしている。演奏全体が、実に純度の高い音で敷き詰められている。
しかも、弾き方は訥々としたもの。決して流麗な演奏ぶりではありません。そのうえで、精細な味わいが感じられるものとなっている。基本的に弱音を重視しながら、静謐な音楽を奏で上げられてゆく。そのような演奏ぶりは、この作品には誠に相応しいと言えるのではないでしょうか。
C・デイヴィスがまた、熱血漢ぶりが影を潜めていて、凛とした音楽づくりがなされています。外に向かってエネルギーを発散させてゆくというよりも、内側にギュッと凝縮されてゆくような音楽となっている。しかも、誠に可憐な音楽となっている。そのような様がまた、この作品に似つかわしいと言えましょう。それでいて、決してひ弱な音楽となることなく、必要十分に逞しくもある。
そのような2人の演奏ぶりを、SKDの清潔感溢れる響きが包みこんでゆく。
その響きは、キリッと引き締まっていて、決して華美ではないけれども充分に艶やかで、そして、誠に美しい。
実に味わい深い演奏であります。実に美しい演奏であります。そして、惚れ惚れするほどに魅力的な演奏であります。