マイケル・ティルソン=トーマス&ボストン響によるチャイコフスキーの≪冬の日の幻想≫を聴いて

マイケル・ティルソン=トーマス(略記:MTT)&ボストン響によるチャイコフスキーの≪冬の日の幻想≫(1970年録音)を聴いてみました。

これは、同時期に録音したストラヴィンスキーの≪春の祭典≫と≪星の王≫、ドビュッシーの≪映像≫と≪牧神≫とともに、MTT(1944年にロスアンジェルスで生まれる)のデビュー盤となったもの。録音当時26歳だった、アメリカ楽壇の期待を集めていた気鋭の指揮者による演奏ということになります。
MTTは、1969年からボストン響のアソシエート指揮者(准指揮者)を務めていました。その繋がりによる録音だったことが容易に想像できます。
また、ピアニストとしての腕前も高く、1969年に小澤さんがボストン響とセッション録音したストラヴィンスキーの≪ペトルーシュカ≫でピアノを弾いていました。このことからも、ボストン響と縁が深かったことが窺えます。なお、ピアニストとしては、ガーシュインの≪ラプソディ・イン・ブルー≫を弾き振りした盤がメジャーだと思われますが、≪春の祭典≫の2台ピアノ版の世界初録音を手掛けていたりもします。

さて、ここでの演奏についてであります。
とても覇気があって、メリハリが効いていて、逞しい音像が立ち上がってくるような演奏になっています。それでいて、音楽は全く空回りをしておらず、一種の落ち着きのようなものが感じられる。目鼻立ちはクッキリとしていて、造形的な美しさを湛えているところも、単なる新鋭と思わせない。エネルギッシュでいて、リリカルな味わいにも不足はない。
そして、とても率直で、清新でもある。チャイコフスキーらしい華麗さも充分。
そのようなMTTの音楽づくりに対して、ボストン響の芳醇にしてコクのある響きがまた、なんとも見事。この演奏に「一種の落ち着き」をもたらしてくれているのは、ボストン響の功績が大きいとも言えそうです。

MTTの豊かな音楽性が刻まれている、立派な演奏であると思います。そして、とても素敵な演奏であります。