セル&クリーヴランド管によるモーツァルトの≪ポスト・ホルン≫を聴いて

セル&クリーヴランド管によるモーツァルトの≪ポスト・ホルン≫(1969年録音)を聴いてみました。


なんと格調の高い演奏なのでありましょう。
どこまでも、キリっとした表情をしていて、凛としている。そして、折り目正しい。なんとも高潔な音楽。
さて、セルの演奏はしばしば「完璧主義者的に過ぎて冷たい」と言われますが、私には「冷たい演奏」だとは思えません。むしろ、セルによる演奏の多くは、キビキビとしていて、躍動感に満ちた音楽になっていて、人肌の暖かみを持っていると受けとめています。更には、細部にまで血の通った、生き生きとした演奏を繰り広げてくれている。
それらのことは、ここでの演奏についても当てはまりましょう。
巧緻にして、筋肉質な演奏であります。しかも、硬質なのだけれども、しなやかで弾力性も持っている演奏が繰り広げられている。キビキビとした敏捷性を備えていて、推進力に満ちた演奏にもなっている。
更に言えば、無駄の全くない演奏が展開されているのですが、必要なものは全て満たされている演奏だと思えてなりません。それは、それぞれの音が、あるべきところに寸分も違わず収まっていて、しかるべき運動量や熱量が与えられながら(それらは、決して過大なものではない)鳴り響いている、とも表現できそう。そして、響きにおいても、音楽の佇まいにおいても、惚れ惚れするほどに美しいものとなっている。
そのうえで、モーツァルトの音楽が持っている優美さや軽妙さにも全く不足はありません。音楽全体が嬉々としていて、表情豊か。セレナードという音楽ジャンルに不可欠な、華やかさや朗らかさも充分であります。聴いていてウキウキとした気分に浸ることができる。第5楽章での愁いに満ちた表情からは、コクの深さが感じられる。
媚びを売るようなところは皆無でありつつ、親しみ深く、愉悦感に満ち、生気に溢れている音楽。それは、華美ではない、「気高い遊び心」とでも形容できましょうか。

なんとも見事な、そして、魅惑的な演奏であります。
逸品だと言えましょう。