マルティノン&シカゴ響によるルーセルの≪バッカスとアリアーヌ≫第2組曲を聴いて
マルティノン&シカゴ響による2枚組CDのフランス音楽集から、ルーセルの≪バッカスとアリアーヌ≫第2組曲(1964年録音)を聴いてみました。
マルティノンは、1963-69年の6年間、シカゴ響の音楽監督を務めていました。それは丁度、ライナーが退任し、ショルティが就任するまでの6年間に当たる。この演奏は、そのごく初期の段階でセッション録音されたものになります。
シカゴ響の機能性の高さもあってのことでしょう、切れ味の鋭い演奏となっています。目鼻立ちがクッキリとしていて、克明な演奏となってもいる。力強い筆致で音楽を掻き鳴らしていて、曖昧模糊とした雰囲気や、浮遊感のようなものは、極めて薄い。とてもリアリスティックな演奏ぶりだとも言えましょう。
こういった事柄は、プロコフィエフの交響曲などでも見せてくれていたマルティノンの音楽的特質であると思うのですが、ここでのルーセルでの演奏では、鮮やかな形で現れています。そして、それらの特質が、この作品が持っている、躍動感や、逞しい生命力や、鮮烈なまでの音のぶつかり合いや、ダイナミクスの幅の広さやを、明瞭に描き出すことに大いに貢献しているように思えるのであります。その結果として、頗る煽情的な演奏が展開されている。
そのうえで、色彩の鮮やかな演奏となっている。フランス音楽としての薫りを備えてもいる。なるほど、基本的には直線的な演奏であると言えるでしょうが、その中からふくよかさが伝わってもくる。特に冒頭の部分では、線がキッチリとしていつつも、ふわっとした柔らかさが感じられる。そのようなこともあって、この作品が持っている、一種の「凶暴性」がシッカリと表出されていながら、決して野蛮な音楽とはなっていない。
聴いていてワクワクしてくるような演奏。ズシリとした手応えの感じられる演奏。しかも、奥行きの深さのようなものを宿している演奏。そして何よりも、この作品の魅力を心行くまで味わい尽くすことのできる演奏。そのような演奏だと言いたい。
シカゴ響のポストに就いていた時期は、マルティノンの「不遇時代」と呼ばれていますし、シカゴ響にとっても、ライナーとショルティとの間の「低迷期」と呼ばれることが多いですが、ここには、このコンビによる豊かな成果が刻まれていると言いたい。そのことは、ルーセルに限らず、この2枚組CDに収められている演奏の多くについて当てはまると思えます。また、この2枚組CD以外にも、多くの素晴らしい演奏を残してくれています。
(マルティノンは後年、「アメリカでの苦渋に満ちた時代は思い出したくない」と語っているようですが、それは、シカゴ響との演奏内容に不満を抱いていたのではなく、楽団理事との抗争や、一部の理事の息のかかったマスコミからネガティブな記事が書かれることに対しての嫌気だった、と言われています。)
マルティノン&シカゴ響による演奏、まだ聴いておられない方は、是非ともきいてみられてはと思います。きっと、大いに魅せられるのではないでしょうか
【参考】この2枚組CDの収録内容
・ビゼー 交響曲
・ 同上 ≪アルルの女≫第1,2組曲
・ラヴェル ≪道化師の朝の歌≫
・マスネ ≪タイスの瞑想曲≫
・ラヴェル ≪スペイン狂詩曲≫
・ 同上 ≪マ・メール・ロア≫組曲
・ 同上 ≪序奏とアレグロ≫
・ 同上 ≪ダフニスとクロエ≫第2組曲
・ルーセル ≪バッカスとアリアーヌ≫第2組曲