アルバン・ベルク四重奏団によるハイドンの≪皇帝≫と≪騎士≫を聴いて
アルバン・ベルク四重奏団(ABQ)によるハイドンの≪皇帝≫と≪騎士≫(1973年録音)を聴いてみました。
シャープでありつつ、艶やかさのある演奏となっています。
私が、この演奏を初めて聴いたのは1980年代のこと。その時は、キレッキレな音楽づくりを前面に押し出した演奏だという印象を強く持った。贅肉を削ぎ落とした演奏で、徹頭徹尾、現代的なスタイルが貫かれている、冷徹な演奏だとも感じられたものでした。
ところが、それから40年ほどが経った今の私の耳には、ウィーンの伝統に根差した演奏として響いてきます。もちろん、切れ味の鋭さは今でも感じられるのですが、その点においては、現在ではABQを超える団体が多数存在していると言えましょう。そう、ABQとは比べ物にならないほどに尖った演奏をする団体が、今では存在する。そして、彼らはエキセントリック極まりない演奏を展開したりもする。
そこへいきますと、ここでのABQの演奏は、穏当な音楽づくりが為されています。充分に潤いがある。艶美でもある。キビキビとした音楽運びが為されていて、キリっとしていて筋肉質でありつつ、ふくよかさが全く感じられない訳ではない。そう、適度な豊潤さが感じられるのであります。しかも、主情に流されるようなことはない。不純物の含まれていない、ピュアな演奏ぶりが示されている。
そのうえで、ハイドンの作品に宿っている古典的な様式感が、シッカリと備わっている。明晰で、鋭利な音楽づくりでありつつも、情緒豊かな演奏となっている。凛としてもいる。
知性と情緒とのバランスが、良く取れている演奏だとも言いたくなります。全編を通じて、明快でありつつも居心地の良さを感じさせてくれる音楽が鳴り響いている。
現代の耳で聴くと、ABQがどんな弦楽四重奏団だったのかを再認識させてくれる演奏。そんな、興味深い演奏であります。
それと同時に、なんとも見事な、そして、とても魅力的な演奏となっています。