ドラティ&ロイヤル・フィルによるオルフの≪カルミナ・ブラーナ≫を聴いて

ドラティ&ロイヤル・フィルによるオルフの≪カルミナ・ブラーナ≫(1976年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

なるほど、ドラティらしく、輪郭線がキッチリとしていて、粒立ちのクッキリとした、クリアな演奏が繰り広げられています。
しかしながら、これらの要素が、あまり極端ではないように思えます。むしろ、そのような性格に加えて、ソフトな肌触りが感じられ、エレガントな表情を垣間見ることのできる演奏だと言えそう。
この≪カルミナ≫と近い時期に、コンセルトヘボウ管と録音したチャイコフスキーの≪くるみ割り人形≫の全曲盤も、似たような性格を持っているように思います。この時期のドラティの指向は、こうだったのでしょうか。そう言えば、レコード史上の金字塔とも言えるハイドンの交響曲全集を制作した辺りから、このような傾向が現れてきたようにも思えます。
そして、1970年代後半にデトロイト響のシェフとなって以降、また以前のドラティに戻って、巧緻で鋭利で明晰な表現を求めてゆくようになった。そんなふうに思いを巡らせたものでした。
そのような意味において、この≪カルミナ≫は、ドラティの演奏を辿ってゆくうえで興味深い存在であると言えるのではないでしょうか。
適度な鋭敏さを持っていつつも、あまり苛烈ではなく、こけおどしな表現に傾くこともなく、毒気の少ない≪カルミナ≫となっている。マイルドさを持った≪カルミナ≫だとも言えそう。その分、まろやかで、滑らかで、美しい佇まいを示してくれてもいる。
それでいて、躍動感は充分で、生気に溢れてもいます。そのことがまた、この作品の性格をシッカリと描き出してくれている。この作品を聴く「楽しみ」を担保してくれることとなってもいる。この辺りは、ドラティの音楽性の豊かさが滲み出た結果だと言えるのではないでしょうか。

ドラティの音盤の中でも、独自の魅力を持った演奏。しかも、作品の魅力もタップリと味わうことのできる演奏。そんなふうに言いたくなります。