ホロヴィッツによるD・スカルラッティのソナタ集を聴いて
ホロヴィッツがCBSに録音したものを集成した16枚組LPから、ドメニコ・スカルラッティのソナタ集(1964年録音)を聴いてみました。
D・スカルラッティ(1685-1757)は、単一楽章からなる鍵盤楽器のためのソナタを555曲書き上げています。それらのほとんどは、1曲あたりの演奏時間が5分かかるかどうかといった短いもの。
そのような作品たちの中から、ホロヴィッツは12曲を選んで、この1枚のLPに収めてくれています。
なんとも毅然とした演奏であります。楷書調の演奏であるとも言えそう。
音楽全体がキリッと引き締まっている。そして、格調高くもある。そのうえで、スカルラッティの音楽が持っている「愛らしさ」もシッカリと表出されている。
音は硬質で冴え冴えとしていて、誠にピュア。しかも、技巧に切れがあって、安定感が抜群であります。そのような音たちを駆使しながら、急速な作品においては、見事なまでの疾駆感を描き出してくれている。一方、ゆっくりとした作品では、変に粘るようなことをせずに、凛とした抒情性を表してくれている。キリっとしたロマンティシズムが漂ってもいる。
また、強弱のコントラストが鮮やかで、ある種の痛快さを覚えもする。
そんなこんなによって、目鼻立ちのクッキリとした音楽を奏で上げてくれています。
純音楽的な美しさを湛えた、唖然とするほどに素晴らしいスカルラッティ演奏。しかも、奥深さが感じられる。そのうえで、音楽に接する幸福感が込み上げてくる演奏となっている。
作品の魅力も含めて、珠玉の音楽に触れることのできる音盤。そんなふうに言いたくなります。