ヴンターリヒ&ギーゼンによるシューマンの≪詩人の恋≫を聴いて
ヴンターリヒ&ギーゼンによるシューマンの≪詩人の恋≫(1965年録音)を聴いてみました。
ヴンターリヒによる、甘美にして真摯な歌いぶりが、私の心をときめかしてくれます。
階段からの転落という不慮の事故で早逝したヴンターリヒ(1930-1966)は、ドイツのリリック・テノールの中でも、別格的な存在だと言えましょう。そんなヴンターリヒによるここでの歌唱は、なんと若々しくて、伸びやかで、輝かしくて、澄み切っていて、そして、甘い薫りの立ち込めてくるものとなっていることでしょうか。
しかも、単に甘い雰囲気で聴き手を包み込むだけではありません。ひたむきさが備わっている。そのうえで、多感な歌が繰り広げられている。主人公が抱いている憧憬や焦燥や、と言えるようなものがごく自然な形で、かつ、切実感をもって表出されている。更に言えば、華やいだ雰囲気と切迫感との交錯が、鮮やかに描き出されている。であるが故に、聴いていていたたまれなくなる。
ヴンターリヒの魅力、そして、≪詩人の恋≫の魅力が、ギッシリと詰まっている演奏。
≪詩人の恋≫の、圧倒的なマイベスト盤となっている1枚であります。