パーヴォ・ヤルヴィ&チューリヒ・トーンハレ管によるオルフの≪カルミナ・ブラーナ≫を聴いて

パーヴォ・ヤルヴィ&チューリヒ・トーンハレ管によるオルフの≪カルミナ・ブラーナ≫(2022年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

64分ほどの演奏時間が費やされています。この作品の演奏時間としては、結構長い。このことが象徴的だと思えるのですが、入念な音楽づくりが為されていると言いたい。
フレーズの扱いが楷書的であることが多く、輪郭線が明瞭で、克明な演奏が展開されている。そのようなこともあって、≪カルミナ・ブラーナ≫としては、原色的な要素を強調したり、土俗的であったり、鮮烈であったり、尖鋭であったり、煽情的であったり、といった演奏になっていません。それよりももっと、理性的な演奏となっている。
パーヴォは、エッジを効かせながら、鮮烈な音楽づくりを施してゆくことを信条にしている指揮者だと見なしていただけに、ここでの演奏ぶりは、かなり意外であります。
とは言いましても、躍動感に不足している訳ではない。その点では、静と動のコントラストがクッキリと付いている演奏だと言えましょう。とりわけ、中盤以降はドラマティックな表現が頻出することとなっている。例えば、最後で再現される「おお、運命の女神よ」は、冒頭での演奏と比べると、逞しさや輝かしさが増している。それでもやはり、全体的には抒情性が優っているように思えてなりません。時に、哀愁が漂ってもいる。玄妙な表情を見せることの多い演奏でもある。

≪カルミナ・ブラーナ≫を、純音楽的に再現しよう、といった意図の感じられる演奏。そんなふうに言えるのではないでしょうか。それが、結構はまっているようにも思える。
ユニークな魅力を湛えている演奏であります。それと同時に、パーヴォの新たな進境を見るような演奏だとも言えそうです。