ムローヴァ&小澤さん&ボストン響によるシベリウスのヴァイオリン協奏曲を聴いて
ムローヴァ&小澤さん&ボストン響によるシベリウスのヴァイオリン協奏曲(1985年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音源での鑑賞になります。
当盤は、ムローヴァのデビュー盤。録音当時、ムローヴァは26歳になる直前でありました。1982年にチャイコフスキーコンクールで優勝した3年後の録音ということになります。
初出時、私は大学オケに所属していて、他の団員が当盤を購入し、それを借りて聴いたのが、この演奏との出会いでありました。そしてそれが、ムローヴァとの出会いでもあった。
この音盤で、一気にムローヴァの虜になった私。チャイコフスキーも併録されていますが、特に惹かれたのが、このシベリウスでありました。
なんとも真摯で、かつ、知的な演奏であります。そして、鋭い感受性に裏打ちされた演奏となっている。
隅々までコントロールし尽くされている演奏だと言えましょう。テクニックも万全。そのため、どこにも破綻が無く、端正な演奏が繰り広げられている。そして、響きも、音楽が示している佇まいも、実に美しい。
しかも、この作品が持っている情熱や逞しさも充分。なるほど、ここでの情熱は、真っ赤に燃え盛るものというよりも、「青白い炎」と表現したほうが良いように思います。一見するとクールに思えるのですが、「透徹された情熱」と呼べるようなものが感じられる。
そのうえで、とても真摯な姿勢で作品に立ち向かっている。
そのような演奏ぶりを通じて、作品が持つ生命力をしっかりと描き出してくれ、かつ、彫りの深い音楽を紡ぎ上げている。そんなふうに言えるように思います。
そのようなムローヴァに対して小澤さんもまた、真摯にして知的で、逞しさにも不足の無い音楽を奏で上げながら、ムローヴァをがっしりとサポートしてくれている。
ムローヴァの魅力と、作品の魅力とを堪能することのできる、なんとも素敵な演奏であります。