ハスキル&マルケヴィチによるモーツァルトのピアノ協奏曲第20,24番を聴いて

ハスキル&マルケヴィチ&ラムルー管によるピアノ協奏曲第20,24番(1960年録音)を聴いてみました。

ハスキル(1895-1960)は、ブリュッセルの駅で転落した際に負った怪我がもとで急逝しているのですが、当盤は、彼女がこの世を去る1ヶ月前の録音になります。
マルケヴィチ(1912-1983)とは、他にもベートーヴェンやショパンやファリャなどをセッション録音で遺してくれています。第一印象としましては、水と油のような音楽性を持っている両者のように思えるのですが、お互いの演奏ぶりに、惹きつけあうものがあったのでしょう。
さて、ここでのモーツァルトの協奏曲についてであります。

高潔にして、玲瓏な音楽世界が広がっています。
一貫して、厳格で凝縮度が高くて、ストイックな演奏が繰り広げられています。疾走感が強くもある。そして、結晶度が誠に高い。これらのことは、ハスキルについても、マルケヴィチについても、当てはまりましょう。両作品ともに短調であるだけに、その感が一層強くなっているとも思えます。
更には、短調作品ということもあって、頗る劇的でもある。切迫感が強くもある。そのうえで、モーツァルトならではの飛翔感も充分。
しかも、その先から優美さが窺われもします。そのことは特に、ハスキルから強く感じられる。
ここでのピアノは、タッチが繊細で、そこから紡ぎ上げられる音は誠にピュアで美しく、かつ、粒立ちが鮮やかで克明でもあります。暖かみを帯びてもいる。そのようなピアノによって奏でられる音楽は、まさに純美なものであると言えましょう。
そのようなハスキルに対して、マルケヴィチによる凛とした音楽づくりが、素敵な色合いを添えてくれています。必要以上に音楽を引き締めておらずに、適度にふくよかさが感じられ、存分に伸びやかでしなやかであることも、モーツァルトの作品には好ましい。全体的に劇的な演奏となっているのも、マルケヴィチに依るところが大きいように思えます。

この両曲の魅力を存分に味わうことのできる、素晴らしい演奏であります。