リパッティによるショパンのピアノソナタ第3番を聴いて

リパッティの7枚組LPから、ショパンのピアノソナタ第3番(1947年録音)を聴いてみました。

優美でいて、かつ、儚さの漂う演奏であります。玄妙であるとも言えましょう。更に言えば、純真無垢でもある。
響きは、どこまでもピュア。澄み渡った音楽が奏で上げられています。であるからでもあるのでしょう、寂しげで儚げ。それは、33歳で急逝した薄幸のピアニスト、というイメージが重なり合っての印象でもあるように思います。
それでいて、しっかりとした生命力が備わっている。必要十分に情熱的でもある。そう、決して「ひ弱な」音楽となっている訳ではないのです。両端楽章などでは、逞しさや輝かしさが充分に感じられ、音楽が渦巻いています。第2楽章でのコロコロと転がってゆくような軽妙さも、とてもチャーミング。そのような中にも、ときおり強い打鍵が示されて、音楽にくさびを打ち込んでゆく。
と言いつつも、やはり、その裏側には、常に「もの寂しげな」感情が潜んでいるような音楽となっている。そのようなこともあり、この演奏の白眉は、第3楽章だと言えるのではないでしょうか。実にデリケートでナイーヴで、清澄な音楽世界が広がっています。そして、心にジッと染み入ってくるような音楽となっている。

全編を通じて、ショパンらしい抒情性や繊細さや、それゆえの美しさや、が、存分に表されている演奏。哀愁に満ち溢れている音楽となってもいる。そのうえで、充分に起伏に富んでいる。
リパッティを一言で表すならば、感受性の豊かなピアニストと言うことができるように思うのですが、そんなリパッティの魅力が凝縮されている、なんとも素晴らしい演奏であります。