マルティノン&フランス国立管によるイベールの管弦楽曲集を聴いて

マルティノン&フランス国立管によるイベールの管弦楽曲集(1974年録音)を聴いてみました。
収められている作品は、下記の3曲。
≪祝典序曲≫
≪寄港地≫
≪架空の愛へのトロピスム≫

イベール(1890-1962)による作品の中で、最も広く親しまれていると言えそうな≪寄港地≫を含んでいる、この管弦楽曲集。とはいうものの、その≪寄港地≫以外の2曲は、滅多に採り上げられる機会のない作品で、両曲ともに、おそらく、初の録音だったのではないでしょうか。特に、最後に収録されている≪架空の愛へのトロピスム≫は、今でも、当盤が唯一の正規録音盤であるかもしれません。

さて、ここでの演奏はと言いますと、逞しい生命力を宿していつつ、洗練味を帯びていて、エレガントな佇まいをしたものとなっています。そして、凛々しくもある。
そのうえで、冒頭の≪祝典序曲≫では、威風堂々とした雰囲気を湛えている。壮麗な音楽と鳴り響いています。
≪寄港地≫では、躍動感に溢れていて、とりわけ、終曲の「ヴァレンシア」では、心が浮き立つような華やいだ音楽が鳴り響いています。なおかつ、全編を通じて、エキゾチックな雰囲気にも不足はない。それでいて、そういった性格が、誇張されてはいない。そのために、純音楽的な美しさが滲み出ている。しかも、十分にドラマティックで、スリリングでもある。
≪架空の愛へのトロピスム≫は、収録されている3曲のなかでは最も長い作品で、ここでの演奏では25分ほどを要しています。イベールは、この作品を1957年に完成させた後には、交響的作品としてはボストン交響楽団に依頼された交響曲の制作に取り掛かっていますが、そちらは未完のまま世を去っていますので、この作品がイベール最後の交響的作品となっています。ワルツや、パヴァーヌ、サラバンド、サルタレッロ等々、多様な舞踊形式を含んだ音楽が織り成されている。
そのような作品に対する、ここでのマルティノンによる演奏はと言いますと、活力に溢れたものとなっています。しかも、過剰にはしゃぎ回るようなことはなく、情趣深いながらも理知的で、そのうえで格調の高い音楽となっているところが、いかにもマルティノンらしいところだと言えましょう。

イベールによる作品を多角的に眺めることができ、かつ、雅趣溢れる演奏で楽しむことのできる当盤。なんとも魅力的な音盤であります。