ザンデルリンク&ベルリン響によるマーラーの交響曲第10番(クック版)を聴いて
ザンデルリンク&ベルリン響によるマーラーの交響曲第10番(1979年録音)を聴いてみました。
クック最終決定版(1972年の初演)による全5楽章の演奏。
いやはや、なんとも充実感タップリな演奏であります。
まずもって、誠に真摯で峻厳な音楽が奏で上げられています。緊張感が高く、彫りが頗る深くもある。克明な音楽づくりが為されていて、なおかつ、機械的に響くようなことは皆無。そして、実にシリアスでもある。暖かみがありつつ、緊張度の高い演奏が繰り広げられている。
そのうえで、誠にドラマティックであり、音楽全体が逞しい生命力に満ちている。スケールが大きくて、しかも生き生きとした演奏となっているのであります。
その一方で、第2楽章に顕著なように、諧謔的な性格も鮮やかに表出されている。また、第3楽章での妖精の音楽を思わせる、軽快で精妙な演奏ぶりも見事。更には、第4楽章での躍動感に満ちた音楽づくりと、そのまま流れ込んでゆく最終楽章の前半での抒情的な美しさを際立たせてゆく様とのコントラストが、実に鮮やか。その先に現れる、第1楽章の回想は、敬虔な雰囲気を湛えている。そういった辺りも含めたギアチェンジが、頗る自然であり、かつ、周到でもある。それ故に、頗る雄弁な演奏となってもいる。
そんなこんなによって、何もかもが「真実の音楽」として鳴り響いている。そんなふうに思えてなりません。更に言えば、コクの深さが感じられる演奏になっていると言いたい。
あまりメジャーな音盤とは言えないかもしれませんが、多くの音楽愛好家に聴いてもらいたい、素晴らしい演奏であります。
(とりわけ、マーラーの10番はアダージョだけで十分、と思われている方々に聴いてもらいたい。実を言えば、私もそのような考え方をしていたのですが、この演奏を聴いて、その思いを改めました。)