ドホナーニ&クリーヴランド管によるベルリオーズの≪幻想≫を聴いて

ドホナーニ&クリーヴランド管によるベルリオーズの≪幻想≫(1989年録音)を聴いてみました。
この演奏では、コルネット入りの版が使われています。

ドホナーニによる演奏の特徴は、明晰な音楽づくりをベースにしながら、作品を端正に仕上げてゆくところにあるように思えます。キリッと引き締まった筋肉質な音楽を奏で上げつつも、充分に力感に富んでいる。生々しさのようなものが感じられ、生命力に満ちている。それはもう、音楽が目の前から飛び出てきそうなほどに実在感に溢れていて、躍動をしている。そんなふうに言えるようにも思う。
そのようなドホナーニであるからこそ、クリーヴランド管との相性は、抜群だったと言えましょう。ドホナーニが志向する音楽を、巧緻に、明瞭に、そして精妙に、実際の音にしてゆくクリーヴランド管。ドホナーニ&クリーヴランド管は、私の大好きなコンビの一つであります。

さて、ここでの≪幻想≫について。
このコンビらしい、キリッとした佇まいをしていて、清々しさの感じられる演奏となっています。
端正で、冴え冴えとしている。全体的に、硬質な肌触りが感じられます。それだけに、透明感がある。スッキリと纏め上げられている演奏。最終楽章も、ドンチャン騒ぎになっておらずに整然としている。
全体を通じて言えること、それは、凛とした音楽が鳴り響いているということ。演奏から、洗練味が感じられます。そのうえで、凝縮度が高くもある。そして、響きも、音楽が示している佇まいも、実に美しい。
その一方で、必要十分な力感がある。ドラマティックな要素にも不足がない。そう、過剰な演出効果は全くないのですが、やるべきことをキッチリと行っている演奏だと言えるように思うのです。音楽の表情が、実に生き生きとしている。更に言えば、「理性的な熱狂」のようなものが備わっている演奏になっている。そんなこんなによって、この作品の魅力がストレートに伝わってくる。

キリっとした佇まいの中から、充実感たっぷりな音楽が響き渡っている演奏。
このコンビの魅力が詰まっている、実に立派な、そして、なんとも素敵な演奏であると思います。