準・メルクル&兵庫芸術文化センター管による演奏会を聴いて

今日は、準・メルクル&兵庫芸術文化センター管(通称:PACオケ)による演奏会(第2日目)を聴いてきました。
演目は、下記の3曲になります。
●ドヴォルザーク 交響詩≪水の精≫
●ドヴォルザーク チェロ協奏曲(独奏:トマ)
●R・シュトラウス 交響詩≪ツァラトゥストラかく語りき≫

ドヴォルザークとR・シュトラウスを組合わせた、ちょっと変わったプログラミング。交響詩で始まって、交響詩で終わるという道筋にはなっていますが、それでもなお、「ごった煮」的な印象を拭えません。
プログラム冊子を見ますと、この3曲はいずれも、1896年に初演されたという共通項を持っていると書かれていました。なるほど、そのような括りでプログラムを組むのも、一興であります。

さて、昨年聴きました、京響とのベルリオーズの≪幻想≫他の演奏会が実に見事だった準・メルクル。そこでは、明快なタクトさばきによって、音楽の鼓動や、運動の性質や、音楽の重量感や圧力やスピード感や、といったものが、十全に伝わってくる演奏が展開されていました。
そのようなメルクルが、この3曲でどのような演奏を繰り広げてくれるのか。しかも、≪水の精≫という、実演で採り上げられる機会の少ない作品に触れることができる。そのうえ、1988年にパリで生まれたフランス系ベルギー人のチェロの新星、トマによるドヴォルザークの協奏曲にも、興味を掻き立てられる。
そんなこんなへの期待を胸に、会場へと向かったのでした。

ホール前の花壇は、色鮮やかに、花が咲いていました。
チューリップも、もう咲いています!!

演奏を聴き終えての満足感は、期待通りのものでありました。特に、≪水の精≫と≪ツァラトゥストラ≫でのメルクルの音楽づくりが。
まずは、その≪水の精≫から。
出だしから、キビキビと律動していて、克明で、彫りの深い音楽が奏で上げられてゆく。そして、音楽の運びが誠に逞しい。音楽が高潮してゆくと、エネルギッシュでドラマティックでもある。そういった様は、昨年の京響との演奏での手応えと、似通ったものがあった。
驚いたのが、メルクルは、この曲を暗譜で指揮していたこと。この、あまりメジャーとは言えない作品を、愛してやまないのでしょう。それはまさに、完全に手の内に収めているといった演奏ぶりでありました。そして、この作品を、本日のプログラムに組み込んだことに、大いに合点がいったものでした。
さて、続きましては、チェロ協奏曲について。
トマによる独奏は、バリバリと弾かずに、デリカシーを前面に押し出したもの。繊細にして、精妙な演奏ぶりでありました。抒情的で、情感に溢れている。それはまさに、感受性豊かな演奏ぶりだったと言いたい。
しかしながら、この協奏曲では、もっと骨太な演奏ぶりであって欲しいという思いが、沸き立ってきて仕方がありませんでした。音量も、もっと豊かであって欲しかった。そういったところに不満の残った、トマのチェロでありました。
なお、この演奏会では、バイエルン放送響のコンマスを務めているバラコフスキーというヴァイオリニストがゲストコンマスに招かれていたのですが、最終楽章でのソロが、端正かつ佇まいの美しさがあり、見事でありました。差し出がましさが微塵も感じられない中から、豊かな音楽を奏で上げてくれていた。
アンコールは、スコリクというウクライナの作曲家による≪メロディー≫という作品を、ミュート付きの弦楽合奏をバックに演奏。こちらでのトマは、朗々とした演奏ぶりで、骨太な感触も持ち合わせていた演奏となっていました。

それでは、メインの≪ツァラトゥストラ≫について。
メルクルの音楽づくりは、折り目正しくて、そのうえ、「うねり」も充分。作品が望むとおりに音楽は伸縮し、息遣いが自然で、かつ、豊かなものとなっていた。そんなこんなによって、端正にして、豊饒な音楽が奏で上げられていったのであります。
このような演奏、大好きであります。
そしてここでも、コンマスバラコフスキーによるソロの、なんと見事だったこと。それはもう、唖然とするほどに巧かった。メルクル同様に、折り目正しくて、誠実で、それでいて、艶やか。押し付けがましさが全くないのに、キリッとした音楽がホール一杯に響き渡っていた。その演奏は、バイエルン放送響のコンマスの名に恥じない。≪ツァラトゥストラ≫のコンマスソロとしては、世界でもトップクラスでありましょう。
更には、トランペットのトップ(女性のレギュラー団員)も、第二部冒頭の至難のソロを、まろやかに決めてくれていて、天晴でありました。終演後のメルクルが、彼女を早い段階で立たせていたのも、納得であります。
メルクルの音楽づくり、それに応える団員と、大いに満足できた≪ツァラトゥストラ≫でありました。

第140回定期演奏会の、ゲスト・プレーヤー等の紹介

それにしましても、準・メルクル、素晴らしい指揮者であります。
1959年生まれですので、今年、64歳。これから先も、円熟の演奏を数多く聞かせてくれるのであろうと、大いに楽しみであります。

ところで、余談になりますが、ホールへ向かうために京都の嵐山を通ると、桜が満開。まさに春爛漫であります。
帰りの嵐山は、電灯に桜が照らされていて、こちらもまた、とても綺麗でありました。