テンシュテット&ロンドン・フィルによるマーラーの≪子供の魔法の角笛≫を聴いて
テンシュテット&ロンドン・フィルによるマーラーの≪子供の魔法の角笛≫(1985,86年録音)を聴いてみました。
独唱は、ルチア・ポップ(S)とベルント・ヴァイクル(Br)。
この音盤の一番の魅力は、ポップのチャーミングこの上ない歌に接することができる点にあると言えるのではないでしょうか。ポップは、バーンスタイン&コンセルトヘボウ管との録音でも歌っていますが、このテンシュテット盤でのほうが、より自由で伸びやかに歌い上げているように思えます。
それにしても、なんと可愛らしい歌声なのでありましょう。コケットの塊のような歌だとも言いたくなります。そして、聴き手と作品の双方を包み込むような、暖かみのある歌が繰り広げられている。それはもう、聴いていて夢見心地に誘われる歌となっている。
更には、音楽への真摯な姿勢が強く感じられ、そこから生まれる深みも充分に感じられる。全体的に、晴朗にして、柔らかくて、まろやかで、しっとりとした質感を持ってもいる。
そんなこんなのうえで、なんとも純真で、可憐で、至る所で音楽が弾けている、頗る魅惑的な歌が披露されています。そして、誠実な歌いぶりとなっている。
一方のヴァイクルは、実に押し出しが強くて、馬力があって、「悪ガキ」タイプとも言えそうな独特の魅力を備えたものとなっている。ちょっとアクが強い過ぎるのではないだろうか、とも思えるのですが、なんとも痛快な歌が繰り広げられています。
そのような二人を情熱的な音楽で包み込むテンシュテット。
熱く燃え滾るような演奏ぶりで、かつ、誠に逞しい音楽が掻き鳴らされている。そして、マーラーの音楽への共感度の高さが、そこここから感じられる。それはもう、実に情感豊かで、濃厚な音楽が鳴り響いています。
ポップによるチャーミングな歌唱を筆頭に、多面的な面白さを備えている、なんとも素敵な演奏であります。