ポリーニによるショパンのポロネーズ集を聴いて

ポリーニによるショパンのポロネーズ集(1975年録音)を聴いてみました。

今年の3月に、82歳でこの世を去ったポリーニ(1942-2024)。
そのポリーニは1960年に18歳でショパン・コンクールで優勝しています。その際、審査委員長だったルービンシュタインが、「今ここにいる審査員の中で、彼よりも巧く弾ける者が果たしているだろうか」と称えたというエピソードは、広く知られたものだと言えましょう。
しかしながらポリーニは、コンクールの後、直ちに多忙な演奏活動に入ることを拒み、丸8年間、国際的な演奏活動を休止して音楽の研鑽を積むという選択をしました。ようやく、1968年になって国際ツアーに復帰すると、1971年にはDGレーベルと専属契約を結び、次々と音盤を世に送り出すこととなった。当盤は、その初期のものの1枚となります。

さて、ここでの演奏はと言いますと、頗るパッショネートなものとなっています。火を噴くようなショパンだとも言えそう。そのうえで、ポロネーズに相応しい豪壮さや律動感も充分。そして、鮮烈であり、シャープでもある。決然とした表情を湛えてもいる。
鋼のように強靭な打鍵によって生み出される音楽は、硬質で純度の高いもの。筋肉質でもある。それはまるで、ミケランジェロによる彫像を見るかのようであります。更には、気宇壮大な「音楽による大伽藍」を仰ぎ見るかのような感覚さえ抱く。
しかも、怜悧で、スマートな演奏ぶりでありつつ、エネルギッシュでホットでもある。そして、音楽を崩すようなことはなく、客観性の高い演奏ぶりが示されている。音楽の輪郭がクリアであり、そのうえで、感情の表出や音楽の起伏の採り方が頗るストレートでもある。
千変万化する表情の幅の広さは、聴いていて「めまい」を起こしそうなほど。そして、昂揚感が極めて高くもある。更に言えば、その先に、「鮮明なリリシズム」と呼びたくなるような詩情性が現れてくるような演奏となってもいる。

聴き手を演奏者の側に惹きつける威力の絶大な、頗る魅惑的な演奏であります。