五嶋みどりさん&メータ&イスラエル・フィルによるブルッフの≪スコットランド幻想曲≫を聴いて

五嶋みどりさん&メータ&イスラエル・フィルによるブルッフの≪スコットランド幻想曲≫(1993年録音)を聴いてみました。
MIDORIさんは1971年の生まれですので、これは彼女が22歳だったときの演奏ということになります。

それにしましては、成熟した演奏ぶりであります。20代の前半にしてこの演奏ぶりとは、畏れ入ります。しかも、彼女らしい、集中度が高い演奏となっている。
その一方で、後年の彼女の演奏の特徴とも言えそうなストイックな雰囲気は薄く、豊饒な演奏ぶりが示されている。或る種の奔放さが感じられ、伸びやかでしなやかでもある。そのような印象は、とりわけ、終曲において顕著に感じられます。そのうえで、この作品ならではのロマンティックで感傷的な感興もタップリ。音色は艶やかであり、華やかさにも不足はありません。
しかも、冴えた技巧の素晴らしいこと。卓越した技術を武器にしながら、研ぎ澄まされた感性に裏付けられた表情豊かな演奏が繰り広げられている。この点については、MIDORIさんの演奏に共通した特徴だと言えるのでしょうが、この演奏からも明瞭に見出すことができます。それに加えて、思いの丈を存分に飛翔させてゆこうとしているような演奏となっている。
MIDORIさんは、年を重ねるにつれて、思いの丈をオープンにさせずに、内省的になっているように思えます。或いは、聴衆に音楽を聴かせるというよりも自分のために音楽を奏でているかのような趣きを見せるようになったとも思える。それだけに、このような率直で、かつ、開放的な演奏ぶりを確認できるのは、今となっては貴重なことだと言えるのではないでしょうか。
なお、バックアップしているメータの演奏ぶりは、ブルッフならではの抒情性を活かしつつも、グラマラスで雄大なものとなっている。実に恰幅が良い。そして、豊饒な音楽が鳴り響いています。そのような音楽づくりが、ここでのMIDORIさんの豊饒さを、より一層引き立ててくれているように思えます。

若き日のMIDORIさん(と言いましても、レコーディングデビューから既に6年ほどが経っている)による魅惑的な演奏。そのように言えるように思います。