チョン・ミョンフン&ウィーン・フィルによるドヴォルザークの≪弦楽セレナード≫と≪管楽セレナード≫を聴いて

チョン・ミョンフン&ウィーン・フィルによるドヴォルザークの≪弦楽セレナード≫と≪管楽セレナード≫(2001年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

この演奏を支配しているもの、それはウィーン・フィルの柔らかくて、ふくよかで、まろやかで、艶やかな美音だと思えてなりません。
ウィーン・フィルにとって、この両曲の正規録音は、これが唯一のものとなっているのではないでしょうか。弦楽器と管楽器による、それぞれのセレナードの代表作とも言える両曲を、ウィーン・フィルで聴く悦びを味わうことができる。それだけでも、とても貴重だと言えましょう。
(弦楽セレナードのもう一つの代表作、チャイコフスキーによる作品は、1942年にイェルガーという指揮者のもとで、ウィーン・フィルは録音を残しているようですが、それ以降、同曲の正規録音は見当たりません。尚、フルトヴェングラーが、ウィーン・フィルを相手に第2楽章のワルツのみを録音していたりもします。)

そのようなウィーン・フィルを相手に、チョンはキビキビとした演奏を繰り広げてくれています。輪郭線がクッキリとしていて、明快でもある。そう、とてもメリハリが効いているのです。溌剌としていて、しなやかさを持っている演奏となってもいる。そして、ダイナミックでドラマティックな音楽が奏で上げられている。
それらの特徴は、特に管楽セレナードにおいて顕著であると思えます。第2,4楽章の急速部分などでは、歯切れがよくて、疾走感に包まれていて、目くるめく音楽が展開されている。
一方の弦楽セレナードでも、第3楽章では音楽が疾駆していて、うねりながら突き進んでいっている、といった感じ。第4楽章の中間部では、急にテンポを速めて、その前後の抒情的な色合いを湛えた音楽との間に鮮やかなコントラストが示されてもいる。また、最終楽章では、キリっと引き締まった演奏ぶりの中から、キビキビとした運動性が醸し出されている。
そのうえで、この両曲がしばしば示すメランコリックな表情の表出も見事。情感が、とても豊かでもある。あまり粘りを見せない中にも、明朗な歌謡性が示されています。

それにしましても、ウィーン・フィル、今更ながらではありますが、本当に魅力的なオーケストラでありますよね。美しくて、音楽性に溢れている。ニュアンスに富んでいて、雰囲気豊か。音楽する歓び、といったものが滲み出てもいる。
このドヴォルザークは、そのようなウィーン・フィルの美質が最大限発揮されている、素敵な素敵な演奏だと言いたい。それ故にと言えましょうか、音楽を聴く歓びを思う存分に味わうことができる。そのようなウィーン・フィルに、心からの感謝を表したい。
そのうえで、ウィーン・フィルの魅力をシッカリと引き出し、かつ、明快かつ情感豊かな音楽を奏で上げているチョンにも、大いなる称賛を送りたい。