マゼール&クリーヴランド管によるベルリオーズの≪幻想≫を聴いて

マゼール&クリーヴランド管によるベルリオーズの幻想1982年録音)を聴いてみました。

キリッと引き締まった演奏が繰り広げられています。それでいて、豊饒な雰囲気も備えている。そう、決してストイックな音楽になっている訳ではなく、適度に開放感を持った演奏となっている。
更に言えば、この作品に備わっている奇怪さはあまり感じられません。逆にピュアな音楽づくりが為されている。
過剰な演出を施すようなことはなく、音響的にも華美になるようなことはない。透明度の高い響きがしています。しかも、音楽の造りは精緻。目鼻立ちがクッキリとしてもいる。全体を通じて、奇を衒ったような表現は見られない演奏。音楽が肥大化するようなこともない。
そのうえで、躍動感にも不足はない。作品が備えている生命力や力感を、過不足なく解放してくれています。後半の2つの楽章などは、充分にスリリングでもある。
そんなこんなによって、頗る純度が高くて、生き生きとした音楽が鳴り響くこととなっています。充実度が高くもある。

珍しい表現が採られていると言えば、最終楽章での「怒りの日」の旋律が奏でられその背後で鐘が打ち鳴らされている箇所で、大太鼓がかなりの大音量で叩かれていた(187小節目から206小節目にかけて)ことくらいでありましょう。なお、第2楽章にはコルネットが入っていますが、あまり強調されずに、慎ましやかに吹かれている、といった感じになっています。

この幻想は、あまり話題に上らない演奏だと言えるかもしれません。私も、当盤を聴くのは今回が3,4回目といったところになりますでしょうか。
1980
年代辺りまでは、しばしば「鬼才」と呼ばれていたマゼールですが、この幻想では、オーソドックスなアプローチを施しながら、純度の高い、しかも聴き応え十分な音楽を作り上げている。それはそれは、素晴らしい演奏だと思います。
多くの音楽愛好家に聴いてもらいたい演奏であります。