ユジャ・ワン&ドゥダメル&ロス・フィルによるラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を聴いて
ユジャ・ワン&ドゥダメル&ロス・フィルによるラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(2023年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音源での鑑賞。
今年、2023年はラフマニノフの生誕150年。そのメモリアルイヤーの2月に、ロサンゼルスで開かれた、ピアノ協奏曲全4曲に≪パガニーニ狂詩曲≫を加えた全5曲を連続演奏会の模様をライヴ録音したものの中の1枚になります。
ユジャとドゥダメルは、2013年にシモン・ボリバル響と同曲を録音していますので、再録音ということになります。
ユジャの実演は、これまでに1度だけ体験しています。2019年のゴールデン・ウィークにニューヨークへ旅行に行った際、カーネギーホールで聴いたコンサート。このときは、ティルソン・トーマス&ニューワールド響との共演で、プロコフィエフのピアノ協奏曲第5番が演奏されました。
ユジャは、大胆かつ派手なステージ衣装も手伝って、「色物」的なピアニストであるように見られがちなのではないでしょうか。私も、実演に接するまでは、多少なりともそのような印象を抱いていました。しかし!!
プロコフィエフの第5協奏曲をホールで聴いて、そのような考えを全面的に改めました。色物などでは全くない。
なるほど、深みのあるピアノではありませんでした。ある意味、表面的な音楽づくりであったと言えましょう。しかしながら、聴き手を引きずり込む力の強さに圧倒されたのであります。
このとき感じたこと、それは彼女の演奏の特徴は敏捷性の高さにあるのではないだろうかということです。スポーティでもある。
テクニックはキレッキレ。タッチは極めてクリア。気持ちが良いほどに音の粒が立っている。そのために、音楽が誠に立体的である。その結果として、目が眩むほどに鮮やかな音楽世界が現れてくる。
そのようなことが複合的に作用してのことでしょう、そこでの演奏に、聴く者を唖然とさせる勢いや生々しさや、躍動感が感じられた。更には、音楽を聴く快感を味あわせてくれる大きな魅力が備わっていた。
しかも、テクニックがキレッキレでありながらも、ただ単にその点だけを「ひけらかしている」のではないところがまた、実に素晴らしい。
多くの聴衆が、彼女の演奏の虜になる理由がよく理解できたものでありました。
さて、ロス・フィルとのラフマニノフの第3協奏曲についてであります。
全体的に言えることは、それは、2019年にニューヨークで聴いたプロコフィエフを彷彿とさせるものだったということ。すなわち、誠に敏捷性の高い演奏となっている。
奏でられる音楽はエッジが立っていて、音の粒は鮮やか。立体的な演奏が繰り広げられている。誠に華麗であり、音楽が煌めいている。そして、強靭でもある。それゆえに、実にスリリングな演奏となっている。
その一方で、ただ単に力で押し切るのではなく、軽やかで、動きが機敏でもある。音楽が存分に弾んでいるのであります。
そんなこんなのうえで、ロマンティックな感興も充分。
そのようなユジャに対して、ドゥダメルもまた、敏捷性の高い演奏ぶりで、シッカリとサポートしている。実にダイナミックでもある。
全編を通じて、ユジャも、ドゥダメルも、誠に煽情的で、輝かしい音楽を奏で上げてくれている。
目の覚めるような快演、という表現がピッタリな、頗る魅力的な演奏であります。