ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団によるシューベルトの≪死と乙女≫を聴いて

ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団によるシューベルトの弦楽四重奏曲全集から≪死と乙女≫(1950年録音)を聴いてみました。

激情的で、情念の迸りが感じられる作品だと言えましょうが、この演奏からは、何とも言えない情緒纏綿とした風情が漂ってきます。雅趣に溢れていて、かつ、艶然としている。そのうえで、蠱惑的なまでに美しい。
それはまさに、第二次大戦後まもない時期のウィーンに残っていた、古き佳き薫りのする情緒だと言えましょう。
なるほど、現代の耳で聴くと「切り込みの鋭さ」に不足していることは否めません。しかしながら、優雅にして細やかな抒情性を湛えているこの演奏には、そのような「不満」を払拭させてくれる「大いなる魅力」が備わっている。
しかも、単に抒情に流されるだけでなく、作品が蔵している「パトスの世界」をひたむきに表現しようとしている姿勢も充分に感じ取ることができます。頗る真摯な演奏ぶりであり、そこからは、この四重奏団のメンバーの、シューベルトへの敬愛が感じられもする。
そのような演奏ぶりの先には、シューベルトならではの、哀愁を帯びた感傷的な音楽世界が窺えもする。

現在の多くの団体が示す「エッジの効いた演奏」とは対極にある演奏だと言えましょう。それ故に、現在では失われてしまっていると思われる芳しさを宿した音楽に触れることができる演奏となっている。
そのうえで、シューベルトの音楽世界にもシッカリと身を浸すことができる。
いやはや、なんとも素敵な演奏であります。