ケルテス&ロンドン響によるレスピーギの≪ローマの松≫≪鳥≫≪ローマの噴水≫を聴いて
ケルテス&ロンドン響によるレスピーギの≪ローマの松≫≪鳥≫≪ローマの噴水≫(1968年録音)を聴いてみました。
ケルテスは、類稀なる音楽センスを持った指揮者であると思います。彼の作り出す音楽は、理知的で、キリっとしていて、折り目正しくて、端正。そのうえで、生命力に満ちている。躍動感がありながら、羽目を外すことは無く、常に清潔感を漂わせながら、品格高く音楽を奏でてゆく。
そのようなケルテスによるレスピーギが、どのような演奏になっているかと言えば。
至る所で「前のめり」になりながら、アグレッシブに音楽に立ち向かっている演奏となっています。それは、冒頭に収められている≪ローマの松≫の第1曲目から窺える。奔放な演奏ぶりを基調にしたヒートアップしたケルテスの姿を、ここに見ることができる。そして、かなり豪壮な音楽を奏で上げている。色彩豊かで、律動感に溢れていて、華麗でもある。「アッピア街道」では、実に壮麗で、かつ、開放的にして明朗なクライマックスが築き上げられていて、痛快極まりない。
しかしながら、あくまでもベースにあるのは端正な音楽。一種独特の洗練味が感じられ、毅然としていてもいます。更に言えば、≪ローマの松≫の中の「カタコンベ近くの松」では荘重にして厳かな音楽が鳴り響いており、「ジャニコロの松」を筆頭にして、随所で抒情性に溢れた音楽世界が描き出されてもいる。
抒情性の豊かさにおいては、≪ローマの噴水≫の多くの場面においても当てはまりましょう。それはもう、冴え冴えとした清澄な音楽世界が広がっています。そのような中において、「朝のトリトンの噴水」と「真昼のトレヴィの泉」では、豪壮にして華麗な演奏が展開されることによって、音楽の造りが誠に印象的なものとなっている。
そのような、「剛と柔」のバランスが絶妙な、何とも言えず魅力的なレスピーギ演奏になっている。
尚、ローマ三部作からの2曲の合間に収められている≪鳥≫が、実にチャーミングなのであります。
大学に入る年の春にマリナー&フィルハーモニア管による来日公演で初めてこの曲を聴いて、すっかり虜に。所属していた大学オケで、この曲を演奏会で採り上げることを提案し、演奏することが叶いました。すなわち、とても思い入れのある曲なのであります。
ラモー他が書いた旋律を素材にしながら、懐古的かつ郷愁の漂う音楽に仕上げられている爽やかで楽しい作品を、ケルテスは、スッキリと、そして、格調高く奏で上げてくれています。その佇まいの、なんと端正なこと。しかも、目鼻立ちがクッキリとしていて、輪郭線の明瞭な音楽づくりが示されていて、明快にして晴朗な音楽世界が広がっている。律動的でありつつ、透明感が高くて、演奏全体が冴え冴えとしてもいる。
そのような演奏ぶりを通じて、この作品の魅力を存分に味わうことができる。
選曲の妙も含めて、多彩な面白さを宿している、素敵な素敵な音盤となっています。
尚且つ、ケルテスの多面的な性格をここに見出すことによって、類稀なる音楽センスを持った指揮者だったのだという思いを、ますます強くします。
この音盤、ケルテスの遺産の中ではあまりメジャーなほうではないかもしれませんが、多くの音楽愛好家に聴いて欲しい、素晴らしい音盤であります。