アバド&ロンドン響によるメンデルスゾーンの≪イタリア≫を聴いて

アバド&ロンドン響によるメンデルスゾーンの≪イタリア≫(1984年録音)を聴いてみました。

溌剌としていて、明朗な演奏が繰り広げられています。
躍動感に溢れ、生命力逞しく、情熱的。しかも、息遣いがしなやかで、流麗で、晴れやか。アグレッシブで、ドラマティックで、リリカル。それはもう、瑞々しい感性に貫かれた演奏となっている。
と言いつつも、底抜けに明るいといった感じではなく、理知的であり、かつ、折り目正しい。
速めのテンポによってキビキビと音楽は進められていて、弾け飛ぶような快活さや小気味良さを伴った、推進力に満ちた演奏でありつつも、音楽のつくりは堅固。地に足のついた、充実した音楽が鳴り響いています。その辺りのバランスが、実に絶妙。
そのうえで、伸びやかで、明快で、歌心に満ちている。晴朗でもある。そのような演奏ぶりが、メンデルスゾーンの音楽に相応しい。とりわけ、この≪イタリア≫では。

上で述べてきたことは、1970年代から80年代前半にかけて、多くのアバドの演奏に見られた特質だと言えましょう。その美質が、鮮やかに反映されている、ここでの≪イタリア≫。
アバドの魅力と、この作品の魅力とが、相乗効果を生み出していると言えそうな、なんとも素敵な演奏であります。