柴田真郁さん&大阪交響楽団による演奏会(≪子供と魔法≫他)を聴いて

今日は、柴田真郁(まいく)さん&大阪交響楽団による演奏会を聴いてきました。演目は、下記の3曲。
●デュカス ≪魔法使いの弟子≫
●ラヴェル ≪マ・メール・ロワ≫組曲
●ラヴェル ≪子供と魔法≫全曲(キャストは、添付写真を参照ください)

指揮者の柴田真郁さんは、昨年の12月にフェニーチェ堺で聴いた≪ラ・ボエーム≫でのオペラティックな感興に満ちた演奏で、私を大いに魅了してくれました。そこでは、とても的確な音楽づくりが為されていて、作品の生命力をしっかりと放出してくれる演奏を繰り広げてくれていた。
その柴田さんが、本日はフランス音楽を指揮する。しかも、全3曲が、子供や、魔法にまつわる作品で固められている。更に言えば、ストーリー性のある作品ばかりを揃えている。そんな、プログラミングの妙を感じさせられる、本日の演奏会。
更に言えば、前半にはポピュラリティの高い作品を2つ並べて、メインには、滅多に実演の機会のないラヴェルのオペラを置くという構成も、よく練られたものだと言いたい。
(とは言いつつも、≪魔法使いの弟子≫も、とても人気の高い作品でありながら、実演で採り上げられることはとても少ない。)
はたして、どのような音楽に出会うことができるのだろうかと、胸をときめかしながら会場へと向かったものでした。

実際に聴いてみて、大満足の演奏会でありました。3曲とも、作品の魅力をたっぷりと味わうことのできた、素晴らしい演奏の連続でした。その内容は、昨年12月に聴いた≪ラ・ボエーム≫に優るとも劣らない演奏ぶりだった。
それでは、それぞれの曲について、詳しく触れていきたいと思います。まずは、≪魔法使いの弟子≫から。
ひょっとすると、3曲の中で、この10分ほどの小品から受けた感銘が、最も大きかったかもしれません。先さきにも書きましたように、人気曲でありながらも、なかなか実演で聴く機会のない作品でありますが、聴いている間じゅう、滅多に採り上げられないのが不思議でなりませんでした。こんなにも演奏効果の絶大な作品が、どうして実演で採り上げられないのだろうか、と。
実に生命力豊かな演奏でありました。写実性が高くもあった。この曲は、どうしてもディズニー映画の『ファンタジア』での描写を思い出しながら聴いてしまいがちなのですが、その映像が生き生きと思い出されました。全体を通じて、鮮明にして、鮮烈な音楽が鳴り響いていた。
実に面白く聴けました。また、グッと惹き込まれた。なんて良い曲なのだろうという思いを噛み締めながら聴いていたものでした。
続く≪マ・メール・ロワ≫にも、大いに惹かれました。まずもって、木管の全パートが、チャーミングなソロを披露してくれたのに、驚いてしまいました。中でも、オーボエ、コール・アングレ、クラリネットに魅了された次第。この作品では、木管楽器群に重要な役割を与えられている箇所が散りばめられていますので、この日の団員の演奏ぶりは、誠に有難かった。もっとも、弦楽器群も、この作品ならではのしっとりとした音楽を響かせてくれていて、大いに結構でありました。
そのようなオーケストラを統率しながらの柴田さんの音楽づくりは、どこにも無理がなく、誇張もなく、頗る自然なものとなっていました。流れが自然で、かつ、豊か。特別なことなどは特にやらずに、やるべきことはシッカリとやる。そのうえで、作品に魅力を語らせよう、といった意図を持っていたのかもしれません。しかも、きっちりとした起伏が採られていて、目鼻立ちが鮮やかな演奏が展開されていた。
聴いていて、清々しい気分に浸り、かつ、幸福感を覚えることのできた、素敵な≪マ・メール・ロワ≫でありました。

それでは、メインの≪子供と魔法≫について。こちらも、とても素晴らしかった。
全曲を通じて、柴田さんの音楽づくりが冴え渡っていたと言いたい。作品のツボをしっかりと押さえながら、手際よく、しかも、生命力豊かに、そして、ニュアンスに富んだ表情づけを施しながら奏で上げられていました。
そのような中でも、例えば、古時計のシーンや、算術のシーンでの、鋭利にして鮮烈な演奏ぶりに、ひときわ惹かれました。前半での≪魔法使いの弟子≫と言い、このようなタイプの作品に、柴田さんは適性を持っているように思えます。
と言いつつも、抒情的な場面であったり、最後の方での広大な音楽世界がひろがるような場面であったり、においても、それぞれの場面に相応しい姿で、的確に描きあげてゆく。それぞれの場面が、とても生き生きとしてもいる。オペラ畑での活動に重点を置いてきた経歴が、存分に生かされていた演奏だったと言えましょう。
歌手陣も、素晴らしかった。演奏会形式ではありましたが、必要最小限の演技を伴っての公演となっていて、それぞれの役に没入していた演唱が繰り広げられていました。とりわけ、主役の子供を演じた脇園さんは、子供になりきっていて、ニュアンス豊かな歌唱と演技を披露してくれていた。ときにヤンチャに、ときに優しく、歌い上げていた。しかも、屈託がない。それでいて、声をシッカリとコントロールしていて、この役に必要とされている範囲にドラマティックであり、かつ、柔らかみを備えてもいた。最後の「ママ」と一言呟く箇所は、反省の心情や、ママへの愛情や、といったものがシッカリと籠ってもいた。
その周りの歌手陣も、お姫様などに扮した鈴木さん(コロラトゥーラの技術が万全で、華やか、かつ、可憐な歌いぶりでありました)をはじめとして、穴のない布陣だった言えましょう。
ファンタジー・リリックオペラとも評される≪子供と魔法≫の、浮世離れしたかのような不思議な音楽世界を堪能できた、素敵な公演でありました。

それにしましても、柴田さん、素晴らしい指揮者ですね。この方の活動には、今後も注視し続けたい。
来年の2月には、同じく大阪交響楽団を指揮して、ヴェルディの≪運命の力≫全曲を戦争会形式で採り上げてくれます。今から、その演奏会が楽しみでなりません。