ケンペ&チューリヒ・トーンハレ管によるブルックナーの交響曲第8番を聴いて

ケンペ&チューリヒ・トーンハレ管によるブルックナーの交響曲第8番(1971年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

ケンペは、最晩年に手兵のミュンヘン・フィルを相手に、ベートーヴェンとブラームスの交響曲全集を完成させてくれました。続いてブルックナーの交響曲の録音に取り掛かったのですが、そちらは第4番と第5番が録音されたのみで、1976年に66歳の誕生日を目前にして急逝しています。
当盤が録音されたのは、ミュンヘン・フィルとの2曲の録音の数年前になりますが、我が国でLP初出されたのは、ミュンヘン・フィルとのブルックナーとほぼ同時期。ケンペが逝去した年の秋のことでした。ケンペにとって、ブルックナーの第8番の唯一の正規録音となり、そういう意味でも、とても貴重な記録だと言えましょう。

さて、ここでの演奏について。
ケンペらしい、誠実にして、安定感抜群であり、剛健な演奏となっています。媚びを売るようなところが、全く感じられない。
と言いましても、変にかしこまったようなところは皆無。息遣いが、頗る自然であります。そのうえで、克明であり、生命力の豊かな演奏が繰り広げられている。勇壮であり、十分にダイナミックでもある。概して、やや遅めのテンポが採られながら、推進力にも不足はない。
しかも、美麗と言いましょうか、豊麗と言いましょうか、適度な「官能」が感じられる。律動感も充分。第3楽章を中心として、歌心が滲み出てもいる。しかも、その第3楽章では、他の演奏と比べても、切実感や哀切感の表出が極めて強いように思える。
更に言えば、全編を通じて、この作品に相応しい壮麗さがシッカリと備わった演奏となっている。そこからは、底光りするような輝かしさが感じられもする。

充実感たっぷりの、頗る立派な演奏。そして、作品の魅力を存分に味わえる演奏。
なんとも素晴らしい演奏であります。