シューリヒト&南ドイツ放送響によるシューベルトの≪ザ・グレート≫を聴いて

シューリヒト&南ドイツ放送響(シュトゥットガルト放送響)によるシューベルトの≪ザ・グレート≫(1960年録音)を聴いてみました。

シューリヒト(1880-1967)は、第二次大戦前もしくは大戦中、ライプツィヒ放送響やドレスデン・フィルのシェフを務めていたりしましたが、戦後にはどこのオーケストラのシェフの座に就くことなく、客演による共演を重ねています。そのような中でも、シュトゥットガルト放送響とは密接な関係を築いていまして、数多くのライヴ音盤が世に出されていますが、この演奏は、セッション録音されたものになります。

さて、ここでの演奏についてであります。
流麗な演奏とは対極にあるような音楽づくりであると言えましょう。そのような印象を受けるのは、リズムの取り方が角ばっていて、キッチリカッチリとした歩みで進められていることに起因しているのだと思えます。リズムの取り方が角ばっているのは、第1楽章の序奏部分や、第2楽章といった、緩やかなテンポが設定されている箇所において、とりわけ顕著。それこそ、一歩一歩、踏みしめながら音楽は進行してゆく。その一方で、テンポの速い箇所でも、弾き飛ばすようなことは皆無で、リズムの動きがクッキリと隈取りされたような形で聴き手の耳に届くような演奏ぶりとなっている。
そのうえで、音楽の表情が誠に毅然としています。どこにもハッタリがなく、ケレン味のない演奏ぶりとなってもいる。
それでいて、この作品が備えている壮大さも、誇張されることなく示されている。充分なる推進力や力感が備わってもいる。例えば、第2楽章の真ん中あたりで迎えるクライマックスなど、見事なまでの昂揚感が築かれています。第1楽章の主部や、第3楽章、最終楽章などは、決して前のめりになることは無いのですが、躍動感の十分な音楽となっています。
更に言えば、人肌の暖かみのようなものが感じられる演奏となっています。凛々しくて、キリっと引き締まっていつつも、まろやかさが感じられもする。そう、これまでに述べてきたような演奏スタイルが採られていつつも、まろやかさが感じられるのであります。決して膨らみを持っているような演奏とは言えそうにないのですが、まろやかである。これはもう、驚くべきことなのではないでしょうか。

シューリヒトならではの魅力の詰まった演奏。
なんとも味わいの深い、素敵な演奏であります。