メイエ&兵庫芸術文化センター管メイエ&兵庫芸術文化センター管による定期演奏会(第2日目)を聴いて

2023年11月26日

昨日(11/18)は、メイエ&兵庫芸術文化センター管(通称:PACオケ)による定期演奏会の第2日目を聴いてきました。演目は、下記の4曲。
●ドビュッシー ≪クラリネットのための第1狂詩曲≫(独奏:メイエ)
●エスケシュ クラリネットと管弦楽のためのクラリネット協奏曲(独奏:メイエ)
~休憩~
●ビゼー ≪アルルの女≫第1,2組曲
●ラヴェル ≪ボレロ≫

当初、指揮する予定だったボナートが新型コロナ感染のために降板。代わりに、クラリネット奏者のメイエが指揮を務めることとなりました。そのために、ドビュッシーはメイエの吹き振り。但し、エスケシュについては、阿部加奈子さんが指揮を務めることに。
(ちなみに、エスケシュのクラリネット協奏曲は、メイエが献呈を受けているとのこと。エスケシュとメイエは、1965年生まれの同い年のようです。)

10月に姫路と赤穂で開催されているル・ポン国際音楽祭で聴いたメイエによるクラリネットを聴くことができるのが、最大の楽しみ。ル・ポンでは、メリハリを効かせながら、音楽を自在に操ってゆくメイエの演奏ぶりに引き込まれたものでした。基本的には鋭角的な音楽づくりでありつつも、時おり聞かせてくれる弱音の美しさにも心奪われた。
この日の公演では、どのようなクラリネット演奏を聞かせてくれるのだろうかと、ワクワクしながら会場に向かったものでした。
併せて、指揮者としてのメイエが、どのような音楽を聞かせてくれるのかも、興味津々。メイエは、指揮者としてもキャリアを構築しており、フランス国立放送フィルや、トゥールーズ・カピトール管といったフランスの名門オケをはじめとして、ヨーロッパ各地の数多くの主要オーケストラを指揮してきているようです。我が国では、吹奏楽の東京佼成ウインドオーケストラの首席指揮者を2010-12年の間に務めたり、東京フィルの指揮台に登ったりもしているよう。
更には、≪ボレロ≫で、PACオケの面々がどのようなソロを披露してくれるのだろうかというところも、関心事の一つでありました。

ホール前の木々は、赤や黄色にと、随分と鮮やかに色づいていました

それでは、この日の演奏会をどのように聴いたのかについて、書いてゆくことに致しましょう。まずは、前半の2曲から。
いやはや、メイエによるクラリネット、素晴らしかったです。期待を、充分に満たしてくれました。
卓越したテクニックを駆使しながら、変幻自在な演奏を繰り広げてくれたメイエ。エスケシュでは、フラッタータンギングが頻出したのですが、音が汚くなるようなことはなく、美感を保っていた。澄み切った弱音から、強靭な強音まで、音色や表情を自在に操ってもいた。時に柔らかく、時に鋭くと、その幅が頗る広く、かつ、しなやかで自然でもあった。
全体的に、繊細にして、精巧な演奏ぶりでありました。そのうえで、敏捷性が高くて、音楽が軽やかに走り回り、時に天高く飛翔する、といった塩梅。そんなこんなによって、めくるめく音楽が展開されていった。色彩感に溢れていた。しかも、頗る音楽性の高い音楽が鳴り響いていた。
ドビュッシーでは、玄妙な音楽世界が出現し、エスケシュでは、緊張感に満ちた音楽が鳴り響いていた。
そのようなメイエに対して、阿部さんの指揮は、交通整理に終始していたのが、少し残念でありました。メイエを邪魔するようなことがなかったのは有難いのですが、第1楽章の終盤で、チェロとコントラバスが性格的な動きをしたり、スネアドラムが目立った動きをしたり、といった箇所があり、それらを、もっと強調し、かつ、音に鋭さを持たせても良かったのでは、と思われたものでした。
アンコールは、クラリネットの無伴奏作品。嫌みのないヴィブラートを掛けながら、弱音を中心にした精妙な音楽を聞かせてくれて、吸引力の高い、素敵な演奏を繰り広げてくれました。

クラリネット奏者としてのメイエの妙技に酔いしれた前半でありましたが、後半は、指揮者メイエの音楽づくりに大いに惹き込まれました。メイエの音楽性の高さを見せつけられるような演奏だったとも言いたい。
ケレン味がなくて、作品の魅力を誇張することなく、率直に示してくれた。それゆえに、2曲とも「あぁ~、なんと素晴らしい曲なのだろう」という思いを存分に味わうことができた。
とりわけ、≪アルルの女≫には大いに惹かれました。この曲は、「親子のための名曲コンサート」といった類のものでなければ、なかなかプログラムに乗ってこない作品だと言えましょう。私が実演で触れるのは、2012年6月に聴いたプレトニョフ&ロシア・ナショナル管による来日公演(このときは、第2組曲のみを演奏)以来で、これが2回目でしょうか。それだけに、この佳曲を、魅力的に奏で上げてくれた実演に接することができたという幸福感に浸ることができた。
≪アルルの女≫は、「前奏曲」の冒頭から、豊かな響きを伴った音楽が鳴り響いて、充実感たっぷりな演奏ぶり。弦楽器群と、ホルンを中心としてクラリネットやサックスやファゴットやコール・アングレを加えた管楽器群とが、ユニゾンで奏でる冒頭の旋律。それらの音が絶妙にブレンドされた、美しくて、たっぷりとした音楽が耳に届けられた。かように、メイエによる楽器間のバランスの採り方や、ピッチの合わせ方や、といったオケの統率が、実に見事でありました。それは、≪アルルの女≫の間じゅう、更には≪ボレロ≫に至るまで、変わることはなかった。第2組曲の「間奏曲」の冒頭部分もまた、ユニゾンで旋律が奏で上げられるのですが、スッキリしていながらも厚みがあり、頗る豊かな音がしていた。
その一方で、「パストラール」の中間部での木管楽器群は、音の粒をクッキリと立たせながら、軽やかに吹かせていたのは、メイエ自身が木管奏者ゆえのこだわりだったのでしょう。その効果は抜群で、実にチャーミングな音楽となっていました。似たようなことが第1組曲の「メヌエット」でも言え、弦楽器、木管楽器ともにアーティキュレーションの掛け方が徹底されていて、溌剌としていて、かつ、軽妙で、とてもチャーミングでありました。
その一方で、弦楽器のみによるナンバーとなる「アダージェット」では、静謐な音楽が奏で上げられていた。メイエによるクラリネット演奏は、弱音へのこだわりがしばしば感じられるのですが、その音楽づくりと相通じるものが感じ取れた次第。
第2組曲の「メヌエット」のフルートソロは、ブレスに起因するフレージングの難しさから、時に音が十分に鳴り切らないこともありましたが、スッキリとした演奏ぶりに好感が持てました。
但し、ファゴットとサックスが、勿体つけたようにゆったりと吹くことがあり、メイエの音楽づくりにそぐわないと感じられたのが、演奏に水を差したように思えたものでした。
≪ボレロ≫は、スッキリとエンディングへ向けて音楽が推進していった。誠にケレン味のない演奏。音のバランスも見事でありました。エンディングでの高揚感も、素晴らしかった。それでいて、音が混濁するようなことはなかった。こういったことは、≪アルルの女≫での「ファランドール」にも当てはまる。
≪ボレロ≫では、どうしてもトロンボーン奏者が気になります。曲が始まってからは、死刑執行を待つような気分でソロを待っているのではないだろうか、或いは、この曲が演奏会で採り上げられることを恨めしく思っているのではなかろうか、などと想像しながら、トロンボーンのトップ奏者(PACオケの正団員)を見つめていました。ソロが近づいてくると、こちらも緊張してくる。奏者が楽器を持ち上げて、スライドの滑り具合を点検したり、楽器に息を吹き込んだりと、ソロに向けての準備が始まると、こちらの緊張も高まってくる。
そしていよいよ、トロンボーンのソロがやってきた。
柔らかめの音でありつつも、グリッサンド多めの吹き方で、結構奔放に吹いていました。そして、大きな瑕疵もなく(終わりのほうで、若干まごついてはいた)吹き切ってくれました。
この日は、フィラデルフィア管のトロンボーン副首席奏者がスペシャルプレーヤー(兼トレーナー)として参加していて2番トロンボーンを吹いていたのですが、終演後には、フィラデルフィアの副首席からも労われていたようです。これが、「慰められていた」にならなくて、本当に良かった。また、終演後に、各奏者がメイエから立たせてもらう際には、トロンボーン奏者のところで会場の拍手がひときわ大きくなり、かつ、ステージ上でも仲間の団員から足踏みによる称賛を受けていました。
トロンボーンのトップ奏者さん、お疲れさまでした!!

最後に、終演後の舞台の様子を撮影した写真を添付することに致します。
充実感いっぱいの演奏会に、満ち足りた気分で会場を後にしたものでした。