マルケヴィチ&ベルリン・フィルによるチャイコフスキーの≪悲愴≫を聴いて

マルケヴィチ&ベルリン・フィルによるチャイコフスキーの≪悲愴≫(1953年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音源での鑑賞になります。

マルケヴィチらしい、明晰な演奏であります。音楽の輪郭がキッチリと描かれている。そして、歩みに迷いがない。それゆえに、造形美を湛えた演奏となっている。
とりわけ第3楽章は、キビキビとした動きが前面に押し出されています。
それでいて、普段のマルケヴィチと比べると、鋭利さがあまり感じられません。冷徹な演奏となってもいない。ふくよかであり、まろやかであり、豊潤さが感じられる。
そのうえで、決然とした音楽となっている。チャイコフスキーにありがちな、「お涙頂戴」的な演奏とは一線を画していると言えましょう。もっと、純音楽的な佇まいが示されているのであります。
しかも、エネルギッシュでドラマティック。息遣いは自然で、かつ、作品の持っているエネルギーが的確に放出されています。音楽の起伏がキッチリと示されてもいる。最終楽章の中間辺り(73小節目のPiu mosso)で音楽が最高潮に達したところで、唸りを上げながら驀進する様は、この演奏の中で最も激烈なものになっている。

聴き応え十分であるとともに、マルケヴィチの懐の深さを実感することのできる、素敵な演奏であります。